第四十一話 アシュベルとルーシィ①
ルーシィはもう間もなく年季が明ける。俺は久々に前線から戻り、馴染みの娼館へ向かった。馬を預け店に入ると、心配そうに二階を見つめる娼婦達が居た。
「何やってんだ?何かあるのか?」
声を掛けると、慌てた様子の娼婦達。
「ちょっと…癖のある客が来てて…相手をしてるのがルーシィなの…」
「…何?」
「もう四時間以上出て来なくて…時間過ぎてるのに、何度も声を掛けたんだけど…」
「大丈夫なのか?質の悪い客は出禁に出来ないのか?この店の黒服は何やってんだよ?」
「それが、黒服さん達が全員やられちゃって…」
そんな奴がルーシィと?嫌な予感がする。俺は二階に上がり、ルーシィの部屋の前に立った。
「お客さん、ちょっと!時間過ぎてますよ!」
「うるせぇ!今良いとこだって言ってんだろ!延長料払えば良いんだろうがよ!」
「お相手してるうちの嬢は無事なんでしょうね?声を聞かせて下さい」
「…」
「おら、何か言えよ」
「…」
「おい、何か言えって!」
声は聞こえない。ルーシィは助けを呼んでいる。俺は扉を蹴破った。
「お前、何入って来てんだよ…あ?騎士か?」
ルーシィは、縛られ身動きの取れない状態だった。顔や体に青痣や切り傷がある。行為の最中に痛めつけられたのだろう。俺は剣を抜くのを堪え、その客に拳を喰らわせ蹴飛ばし締め上げた。
「…うっ…お前、こんなことしてただで済むと…」
「ただで済むんだよ。俺は騎士だぞ。治安維持が俺の仕事だ。お前は娼婦に暴力を振るった現行犯だ。この町の治安部隊に突き出す」
男の肩を外し、痛みに叫ぶ男を殴って黙らせ縛り上げた後、ルーシィの縄を解く。腫れた顔の涙と血を拭うと、痛むのか顔を歪めた。
「…痛いよな、ごめん」
「…助けてくれて嬉しいんだけど…旦那にこんな姿見られたくなかった」
「…ごめんな…あの客、よく来るのか?」
「ううん、忘れた頃に来るの…みんなやられてる。今日はあたしの番だっただけ」
「あいつ、もう来れないようにするから」
黒服に男を渡し、俺の名を治安部隊に出すように伝える。
「タナトス?北のタナトス辺境伯家ですか?」
「ああ、そうだ。タナトス辺境伯の息子の御用達だと言ってやれ。下手な客は来なくなるだろ。客が減って困るかも知れないが、質の良い客が来た方がずっと良いだろ」
「それは助かります。でも良いんですか?タナトス家のご子息がうちなんかに来てるって知られても…」
「んなもん、構わねぇよ。俺達辺境の騎士に娼館通いをとやかく言う奴はいねぇし、娼婦を蔑む奴もいねぇわ。世話になってるからな。それにここは良い店だろ。うちなんか、とか言うなよ」
黒服は頭を下げ、男を連れて出て行った。入れ替わりに、一階で心配していた娼婦達が飛び込んで来た。
「ルーシィ!大丈夫!?ごめんね、助けてやれなくて」
「立てる?ここは私達が片付けるから、向こうの空いてる部屋のお風呂を使いなよ。扉も旦那が蹴破っちゃったし」
「あ〜…悪かったな。金は払うから」
「そんなの要らないよ!あいつが来なくなるなら安いくらいだもの」
「旦那、連れてってくれる?一番奥の部屋」
俺はルーシィを横抱きにして部屋へ入った。ルーシィは俯いたまま、ありがとうと礼を言った。
「風呂、一人で入れるか?」
「…うん、大丈夫」
「この部屋で待ってても良いか?何もしねぇから。飯でも食おうぜ。食えるなら、だけど」
ルーシィは頷いて風呂場へ向かった。…足を引きずっている。…クソ野郎が、抵抗出来ない女に何してやがる。もっと痛めつけておけば良かったと、怒りに震えるアシュベルだった。




