第三十八話 二度目の出産
「リ、リリ、リーシュ!?あなた、お腹に赤ちゃんが居たの!?」
春になり、流石に制服のお腹がきつくなり始めたアリシアは、シンプルなワンピースで通学することにした。その姿を見たエラは驚きのあまり荷物を床にドサッと落としていた。
「実はそうなの。ごめんね、黙ってて。エラったら、折角所作が綺麗になってきたのに、荷物を落としちゃってるわ」
と、エラが落とした荷物を拾おうと腰を屈めたアリシアを、ハッと我に返ったエラが慌てて止める。
「わ、私が拾うわ、お腹がつかえちゃう!」
「まだそんなに大きくないから大丈夫よ」
「良いから、良いから」
エラは荷物を拾いながらじっとお腹を見ている。もじもじとしながら、
「…触っても良い?」
と、アリシアに尋ねた。
「ええ、もちろん良いわよ」
優しくお腹を触るエラの顔が、段々とにこやかになっていく。
「不思議だわ、ここに赤ちゃんがいるのね…予定はいつ頃なの?」
「多分八月じゃないかしら。夏の定期試験までは受けられると思うわ」
「ギリギリまで頑張るのね」
「ええ。出来るだけ早く資格を取りたいの…働かなくちゃいけないし」
「そうだよね…働かなきゃ育てられないもんね。神殿で産むの?」
「そうなると思うわ。みんな楽しみにしてくれてるの。出産経験のある人達が多いから、心強くて」
「良かった、頼りになる人達がいるのね。産まれたら教えてね。抱っこしに行っても良い?」
「もちろんよ!必ず知らせるわね」
平民向けの学校は、年齢層が幅広く、アリシア以外にも妊娠中の生徒が居た。悪目立ちするかと思っていたアリシアだが、生徒達から好奇の目で見られることもなく、自然と受け入れられていると感じた。神託が降りた時のような居心地の悪さもなく、噂が飛び交うようなこともなかった。
皆、自分や家族の生活がかかった資格の取得が第一で、それ以外はさして関心がないのだろう。生徒の年齢層が幅広いのは、仕事をしてある程度の学費と生活費を貯めてから学校に通う人もいるからだ。貴族とは違う。アリシアにとって、真面目に勉学に励む学友達の存在は自身を大いに奮い立たせた。自分も、学友達の刺激となれたら良いと思う。この学校は居心地が良い。ザドキエル先生に教えて頂いて本当に良かった。
薬茶を作る上で重要なことは、いかに薬効を逃さないよう素材を乾燥させるか、どのくらい乾燥させるか、似た素材の見極め方、匂いの違いや配合量など多岐に渡った。素材を粉末にする場合のすり潰し方も、細かい方が良い場合と、粗い方が良い場合とで違いが出るようだ。知れば知るほど奥深い。平民向けでさえそうなのだから、魔法を駆使する貴族向けはもっと学び甲斐があるのだろう。羨ましいと思いつつも、アリシアは目の前の課題を一つ一つこなしていった。
そうして八月。
アリシアは産気付き、オーグス神殿内は一気に慌ただしくなった。産婆が駆け付け、出産経験のある神徒達が湯を沸かし清潔な布を用意し、アリシアの腰を押して痛みを和らげようとしてくれたり、水を飲ませたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
「リーシュ、頑張って!息をして!」
「頭が見えてるわ!こら、息を止めないの!」
夫婦神の一柱、女神フィオレンツィアーナは大地を司る神だ。大地は生命を育む場所とされている。フローリアは無事の出産をフィオレンツィアーナに祈った。アリシアは、決して神託を蔑ろにしていません…どうかご加護を…
陣痛が始まってから十時間が過ぎた頃、元気な産声を上げて男の子が誕生した。




