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きみの頬をなでる風になれたら  作者: 朝倉いろは


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アリシアの葬儀・リヒト

 アリシアの葬儀は、スナイデル家の別邸に神官を招き、近親者のみで執り行われることになった。表向きはまだ首の座っていない乳飲み子がいるため、だった。神を欺いた葬儀を神殿で行うのは、流石のマリアンネ様にも憚られたようだ。本邸の離れにはアリシア本人がいる。別邸に居たアナベル様は、間もなく出産を迎えるため里帰りしている。本邸の使用人達にも秘密を知る者は多くない。そのため使用人も数を絞り、別邸で行うことにしたようだ。…アリシアも里帰り出産していれば、こんなことにはならなかったかも知れない。フィデール子爵領は身重の体には遠く、負担になるだろうとの判断だった。

 ヴィンセント様は最後まで反対していたが、結局はマリアンネ様の意向に沿う結果となった。代役は俺だ。スナイデル公爵閣下も駆け付けたが、俺が偽物だとは微塵も思っていないようだ。ヴィンセント様も気の毒なことだ。親にも気付かれないとは…

 アリシアに似た背格好の娘の遺体は、貧しい平民だという。病に罹り亡くなったと聞いたが、真実は分からない。マリアンネ様の護衛騎士セドリック様が何処からか運び込み、侍女のジャスティーヌ様が身なりを整え化粧を施し、アリシアの服を着せた後魔法で氷漬けにされた。氷漬けにされれば、顔ははっきりとは見えない。愛用している物には多少なりとも魔力が移ることがある。アリシアの魔力はごく僅かだが、家族ならば感じ取れるだろう。亡骸には魔力がない。疑われることはないはずだ。そのまま棺に納め、埋めてしまえば二度と日の光が当たることはないだろう。

 初めて会うアリシアの家族は、通常五日掛かる道程を三日で駆けて来たという。乱れた髪や衣服を見れば、一日も早く会いたいという一心でやって来たことが分かった。棺に納められた愛娘を前に泣き崩れる母と、アリシアによく似た妹。涙を堪える父は二人を支えていた。氷を溶かしてやって欲しいと頼んでいたが、日が経っているため氷を溶かすと腐敗が早く進む、美しいままで埋葬を、などと言いくるめられ、冷たい氷を撫でていた。言い訳が上手いことだ…氷を溶かせば他人と見破られてしまう…それだけのことだ。

 フィデール子爵は涙ながらに俺の手を握り、娘の忘れ形見をよろしく頼むと、声を震わせた。

 マリアンネ様の腕の中で眠っていたルーセント様は目を覚まし、フィデール子爵家族を見てふわりと笑った。小さな手が、フィデール子爵の指を握れば、男泣きを止めることなど出来なかった。

 アリシアも…こんな風に私の指を握って笑っていたのだと、抱き合いながら涙を流すフィデール子爵家族を、マリアンネ様はどんな気持ちで見ていたのか。


 俺には分からない。

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