アリシアの葬儀・フィデール子爵
アリシアが亡くなったと知らせを受けたフィデール子爵夫妻と妹のオリアナは、昼夜問わず馬を飛ばし、騎馬で五日掛かる道程を三日で駆け抜け王都のスナイデル家別邸に辿り着いた。がっくりと項垂れるヴィンセントの前には、愛娘アリシアの変わり果てた姿があった。
家族に一目会わせたいと、魔法によって氷漬けされたアリシア。分厚い氷の中はさぞかし寒いだろう。ふっくらと可愛らしかった頬は面影が変わる程に痩せていた。出産時の出血が多かったせいか、体調が回復せず次第に弱っていき、治療の甲斐なく儚くなってしまったという。義母マリアンネの腕の中には、アリシアが命と引き換えに産んだ孫がいる。悲しみに沈む大人達とは対照的に、穏やかな顔をして眠っている姿を見れば、余計に悲しみが募る。何故もっと早く知らせてくれなかったのか。今際の際に声を掛けてやることも、手を握ってやることも出来なかった。公爵家に対し言えることは少ない。フィデール子爵は唇を噛んだ。
一年程前、ただただ幸せになって欲しいと願い送り出した娘。時々届く手紙には、慣れない生活に戸惑いながらも新妻として奮闘する様子が書かれており、微笑ましく思っていた。そして、初めての出産に臨む不安も書かれていた。輿入れの際に付き添ったばぁやはフィデール領に帰され、たった一人で心細かったことだろう。公爵家だからと遠慮せずに、駆け付けて側に居てやれば良かった。母として何かしてあげられることがあったはずだと後悔の涙を流す妻。泣きじゃくるもう一人の娘。二人の肩を抱きながら、微かに残るアリシアの魔力を感じていた。優しい優しいアリシアの魔力。家族に会うために、消えずに残っていたのかと、フィデール子爵は娘の亡骸を見つめ泣いた。
不甲斐ない、申し訳ないと何度も頭を下げるヴィンセントの真摯な姿に、娘の忘れ形見をよろしく頼むと涙ながらに託す。棺が閉じられれば、二度と見ることの出来ない娘の姿。閉じないでくれ、埋めないでくれと叫びたい気持ちを抑え見届けた。
アリシア・フィデール・スナイデル 享年十七
冷たい墓標に刻まれた娘の名を撫でる。
三人を包んでいたアリシアの微かな魔力は、もう感じ取れなかった。




