第二十一話 草の実②
あの薬茶は眠たくなるため、本を読み始めてからは飲んでいない。抜け出す際に侍女達に飲ませてしまったが、効能がずっと続く訳ではないので健康を害することはないだろう…それに、図鑑で調べているだけで、確証はない。似たような植物はたくさんある。図鑑には、特定の薬草と共に、とあった。恐らくは濫用を防ぐためか、その特定の薬草が何かは記されていなかった。ここからは薬学の専門分野になるのだろう。
…ヴィンセント様を信じたい…けれど…
あんなに切なげな告白を聞いたばかりなのだ。アリシアは思案気に目を閉じた。
…でも、私を好きだと思って下さることと、二人目が欲しいかどうかは話が別だわ。嫡男のルーセントがいるのだし…私は二人目が欲しいと思っているし、辺境では戦闘で亡くなる男性が多いから子供は何人でも欲しいところだけど、ここは王都…でも、それなら相談して欲しい。私達は夫婦なのだから。
近いうちに、ザドキエル先生の庵に行きたい…もうすぐお茶の時間だから、侍女達が訪れるはずだ。アリシアは擬人の魔法陣を試すことにした。いつも腰掛けている窓際の椅子にクッションを置き、そこに指で魔法陣を描く。術式を組んだ後は呪文を唱えた。気配を消し、衝立の後ろに隠れて様子を窺った。
コンコンと扉を叩く音がして、ルリとセレナが入って来た。
「あら、お休みのようだわ」と、セレナが言う。
「椅子に腰掛けたままでは、お体が痛くなってしまうかも」
「でも気持ち良さそうにお休みされているから、もう少しそっとしておきましょう。昨夜は若様と遅くまでお過ごしでしょうから…」
…遅かったし朝も早かったです…とは言えない。二人はそっと扉を閉めて出て行った。術式は上手く発動したようだ。効果の持続時間が気になるところだが、初めてにしては上出来だろう。
ひとまず、次に侍女の一人が義母に呼ばれる日、確証がないため申し訳ないがあのお茶をまた飲んでもらおう。ザドキエル先生は薬茶にも詳しそうだったから、安全な眠りのお茶を教えてもらおう…アリシアは術式を解き、今しがた目が覚めた振りをして侍女達が詰めている厨房に向かった。
その日は四日後に訪れた。午後になり、オルガがマリアンネに呼ばれて本邸に赴き、サティは不寝番の役目に備えて自室に下がった。アリシアは、私がお茶を淹れるわね、とあの茶葉をティーポットに入れ湯を注いだ。午前中に侍女の皆と焼いたクッキーを皿に盛り、テーブルにティーカップを並べる。この場にいない侍女二人のためにクッキーを小分けにし、湿気らないように小さな瓶に詰めた。自分のお茶は、新しく作ったブレンドを味見したいと言って別のものを用意した。
そうして午後のお茶会が終わり、前回のように少し休むと告げ部屋に戻る。寝台に忍ばせたクッションに擬人の魔法をかけ、気配を殺して窓から外に出た。




