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きみの頬をなでる風になれたら  作者: 朝倉いろは


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第二十話 草の実①

 目覚めると、珍しくヴィンセントはまだ眠っていた。起こさないようにそっと寝台から出て、髪を指で梳く。夜着の紐を結び直し、窓辺の椅子に腰掛けた。カーテンを少し開ければ、朝焼けの光が庭を照らし色付き始めた木々を染めている。美しい。ここにルーセントが居て、親子三人で眠れる日が来るのかしらと、アリシアは朝日に目を細め鳥の声を聞いていた。

「…アリシア?」

 もぞもぞと、眠そうに布団から顔を出したヴィンセントは、少し幼く見える。

「日が登り始めたばかりで、まだ時間があります。もう少し休まれては」

「…きみが居ないから目が覚めてしまったよ。こちらに来てくれ」

 何だろう、昨日から様子が変だ。アリシアは寝台に入りヴィンセントの腕の中に納まった。口付けられたと思ったら、朝だというのにまた夜着を解かれている。

「あ、あの…ヴィンセント様…もう朝です…」

「うん、そうだね」

「お仕事は…」

「まだ時間があるから」

「でもカーテンが…」

 先程少し開けたカーテンがそのままだ。明るい光が差し込んでいる。そう言ってもやめてくれそうにない。

「明るいときみの顔がよく見えるのが良いね」

 などと、恥ずかしすぎることを言っている。

 カーテンの隙間を気にしつつ、首筋に顔を埋めるヴィンセントの頭を撫でていると、絞り出すような小さな声が聞こえた。苦しいような、喉に詰まったような声だ。

「…アリシア…好きだ…」

 それは、小さな小さな声だった。

「ヴィンセント様…私…」

 私も、好きです。

 そう言いたかったのに、口付けられ声を出すことが出来なかった。


 早朝からヴィンセントに翻弄されたアリシアは、その日すっかり朝寝をしてしまい、ぼんやりと庭を眺めていた。思いがけず、ヴィンセントから初めて好きだと言われたことを思い返しては、何とも言えないこそばゆい気持ちになり、その度にお茶を飲んではすっかり水っ腹になってしまった。ふと、長椅子を見れば昨夜調べていた草の実が入った籠と植物図鑑が目に付いた。籠の中の実と葉は乾燥しておりシワシワになっていた。乾ききってはいなかったが、見覚えのある実だ。…そうだわ、ヴィンセント様がお持ち下さるお茶の一つに似たような実が入っているものがあったわ。滋養のある実なのかしら、と厨房に行き茶葉を入れた瓶から実を取り出した。

 …似ているけれど…こんな実はいくらでもありそう。

 茶葉に混ぜられた実は乾燥しているものの、比較的鮮やかな赤い色をしていた。アリシアが拵える茶も、公爵邸に揃えられている茶葉も、色鮮やかな花弁や木の実が混じったものもあり、図鑑だけの知識ではなんとも言えないなぁ、とアリシアは思った。

 …いつか、学校に行って薬草の勉強をしたいな。魔獣から得られる素材を使わない薬茶なら、魔法を使わなくても出来るし…

 そう思いながら図鑑を開いたアリシアは、薬効を記した文面を読んで言葉を失った。

 

【効能】避妊 

 葉と実を乾燥させたものを用い、特定の薬草と共に茶にして飲む、または粉末を飲むことで効果を得る。粉末を飲む方が効果が高い。一定期間飲まずにいると効果は失われる。

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