第十四話 隔離④
一才になったばかりのルーセントは人見知りをするかも知れない、泣かれたらどうしようと思っていたアリシアだが、思っていたよりも大人しい。ヴィンセント譲りの青紫色の瞳はキラキラと輝いており、離れに飾られた見知らぬ絵などにも興味を示していた。少し癖のある銀色の髪は、ふわふわと柔らかそうに逆立っていた。
ようやく会えた我が子に戸惑うアリシアに、マリアンネはルーセントを抱く事を許した。膝をつき、おいでと両手を広げれば、ルーセントは嫌がる素振りもなく、両手をアリシアに差し出すようにしてぽてぽてと歩いて腕の中に納まった。温かくずしりと重くなった我が子を抱き締めると、甘い乳の匂いがした。ふわふわの髪が鼻をくすぐる。一年離れていたにも拘らずこんなにも可愛いと思える存在に、アリシアは会ったことがなかった。
「とっても大きくなったのね、ルーセント。あなたの母です」
と言えば、思わず涙ぐんでしまう。マリアンネの眉がピクリと動いた。
「林檎は好きですか?」
アリシアはルーセントを抱き上げ小さな椅子に座らせると、林檎のコンポートをスプーンで与えようとした。匂いを嗅ぎ少し口に入れたルーセントは、気に入ったのかアリシアにコンポートをねだった。
マリアンネは淑女らしい微笑みを浮かべつつ、目は笑っていない。アリシアの挙動を見張っているようだ。隣にはヴィンセントがいる。同席するために珍しく休みを取ったらしい。いつもの優しい雰囲気はなく、話し掛けてもくれずどことなく緊張しているようだ。二人ともお茶は飲んでもパイに手をつけることはなかった。
マリアンネは二時間ほど滞在し、ルーセントは責任を持って育てるから安心して任せなさい。大人しくしていればまた会わせてあげます、と言い残し去って行った。ひとまず、機嫌を損ねずに応対出来たようだとホッと胸を撫で下ろす。
手をつけられなかったパイをオーブンで温め直し、侍女達とお茶でも飲もうと準備をしていたところにヴィンセントが訪れた。
「やぁ、今からお茶の時間かい。私も一緒に頂こうかな」
そう言われてしまえば、アリシアとヴィンセント二人の席が用意される。侍女達にはパイを持たせ下がらせた。
「ルーセントはヴィンセント様によく似ていますね」
「そうだね、髪の色や瞳の色が同じだからね」
「私の髪と目の色に似ず、良かったです」
「そんなことを言うものじゃないよ。きみに似ていたらもっと可愛かったさ」
「私に似ていれば、この手で育てることが出来たのでしょうか…」
「母上はこの瞳の色を特別視し過ぎる」
どこか遠い目をして溜息を吐くヴィンセントは、美味しそうだね、とパイに手をつけた。




