第十二話 隔離②
ザドキエル先生の言葉を思い出した時、心臓がドクンと跳ねた。先生はあの後何か言おうとしていたが、始業を知らせるチャイムが鳴ったため、アリシアは会釈をしてその場を去ったのだ。
…あれはどういう意味だったのかしら…今更ながら、先生ともっと話をしておけば良かったと思う。確かに、ほんの少しの魔力は持っているけれど…
アリシアの魔力は、平民よりも少ないくらいだ。魔法を使える平民はほとんどいない。魔力量が少な過ぎることと、貴族のような教育を受けることが出来ないからだ。もし魔力量を増やすことが出来れば、自分も魔法を使えるようになるのだろうか。魔法が使えれば、お義母様も私を認めて下さるかしら…アリシアは少し期待しながら頁を捲った。
「随分と熱心に読んでいるね」
夢中で読み耽っていると、ヴィンセントに声を掛けられた。窓の外はすっかり暗くなっている。日がな一日読んでいたようだ。侍女達が用意してくれていたお茶も食事も冷め切っている。
「食事を温め直させよう。おいで、一緒に食べよう」
ヴィンセントに手を引かれ、本をサイドテーブルに置いて立ち上がる。座り過ぎていたため、足が痺れてよろめいたアリシアを、ヴィンセントは優しく抱き留めた。ふわりと香水が香る。アリシアはこの香りが好きだった。
「足が痺れるくらい本を読んでいたのかい」
と、ヴィンセントは笑った。
「本邸の本をお借りすることが出来たので、夢中で読んでおりました。ラウール・ザドキエル先生がお書きになったもので、何だか懐かしくて」
貴族院を卒業してからすぐに輿入れだった。数ヶ月後には懐妊し、出産したので、まだ二年ほどしか経っていない。世間から隔離されたアリシアにとっては、すっかり年寄りになったような気分だった。
珍しくよく喋るアリシアを見て、ヴィンセントは頬を緩ませた。今日は調子が良いようだ。我が子と引き離され哀れに思うが、あの母には敵わない。どうにかして会わせてやりたいものだ。
食後湯浴みをすれば、長時間の読書で凝り固まった体も解れた。ヴィンセントはワイン、アリシアは度数の低い果実酒を楽しんでいるうちに夜も更けた。
「アリシア」
寝台へと誘われ抱き締められると、湯上がりの同じ香りに包まれる。ヴィンセントは底なしに優しい。まるで甘い毒のようだった。




