幕間 婚約指輪
雪がやみ晴れ間が差すと、キラキラと光を反射させながら、みるみる雪が解けていく。オーグスは元々雪が深い地域ではないため、解け始めればあっという間にいつもの街並みに戻っていた。雪が解けて残念そうなのは子供達だ。誰も足跡をつけていない真っ白な雪に、最初に足を踏み入れること。近所の子供達と一緒に雪玉を投げ合ったこと。雪だるまを作ったこと。レグルスにとっては初めての経験だった。
「ゆきなくなっちゃったねぇ」
「そうだねぇ。もう一回くらい積もるかなぁ」
「またふるかなぁ」
「どうだろうねぇ」
そんな話をしながら、神殿に向かった。
朝の祈りを捧げ、レグルスを神殿の女性達に預ける。アリシアは仕事場である薬茶店に向かった。
リヒトは、店主に頼み込み花屋で働き始めた。補色の眼鏡をかけ、銀の髪は帽子で隠しているが、花に囲まれると元々の整った顔立ちがさらに引き立っている。花を背負っていると言っても過言ではない。そのおかげか、花屋の売り上げは右肩上がりのようで、渋々雇った店主も大喜びだ。
リヒトは時々小さなブーケを作り、買って帰るようになった。食卓や玄関、脱衣所などに花が飾られ、家の中が華やいでいる。初めての給金はよほど嬉しかったのか、近くの食事処でご馳走してくれた。レグルスはあまり外食をしたことがなかったので、大喜びだった。
そうして休みの日。雪の日の約束通り、二人は一緒に買い物に出掛けた。レグルスはルーシィとお散歩だ。
二人、手を繋いで歩く。思えば、町中を二人で歩いたことはなかったように思う。日用品や食材を買いに出たことはあったが、いつもレグルスと三人だった。
「こういうのも良いな」
「そうね」
なんだかこそばゆい気持ちになり、会話が途切れ途切れになってしまう二人だった。
揃いのものは何にしようかと考えていたリヒトだったが、婚約の記念になるものといえばやはり装飾品だろう。そう考えていたのはアリシアも同じだった。
「これ綺麗。リヒトの瞳の色みたい」
アリシアの目に留まったのは、青紫色が美しいタンザナイトの指輪だった。
「地金は白金なのね」
「魔力をお持ちであれば、石に籠めることで護り石にもなりますよ」
「私はほとんど魔力がないのだけど、出来るかしら」
「私達平民でも可能です。あまり強いと石が割れてしまいますので」
「では、俺はこの煙水晶の指輪を…優しい茶色の石だ。きみの色だな」
お互いの色を選ぶ二人を、店員は微笑ましく見ている。
「地金はどうなさいますか」
「そうだな、金にしよう」
「石と地金をお選び頂き、意匠を揃えることも出来ますよ。注文になりますので、少しお時間を頂きますが」
二人は顔を見合わせ、揃いで作ってもらうことにした。日常使いに出来るよう、石はあまり目立たせず、地金は艶を消し、男性用は少し太めに、女性用は少し細めに、お互いの名前を内側に刻印してもらうことにした。
指輪は二週間ほどで仕上がるそうだ。支払いを済ませて、また二人手を繋いでレグルスを迎えに行く。
「早く出来ないかな。楽しみ」
「良い買い物が出来て良かったな」
ルーシィとレグルスも、ちょうど散歩から帰って来たところだった。
「おとうちゃ、おかあちゃ」
「ただいま、レグルス」
「あれ?もう良いの?」
「うん、ありがとうルーシィ。大丈夫だった?」
「とってもお利口さんだったよ!」
ルーシィにお礼のお菓子を渡し、三人で家に帰る。レグルスと三人でお揃いを、とも思ったが、今回は夫婦だけの記念の品だ。それが、なんだか嬉しい。
そんな、優しい、少し照れ臭い休日だった。




