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悪役令嬢に転生した魔王信長、婚約破棄されたのでアイドル聖女を焼き払ったら、最強男たちに溺愛されました。  作者: おおたまらん


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第7話:狂乱の王都。アイドル聖女の「推し活」と、堕ちた王族たち

 黄金都市『安土』が、その富と軍事力を静かに研ぎ澄ませていた頃。

 かつてノエルを追放した王都は、異様な熱気に包まれていました。


「みんなー! 今日もあたしに、愛を届けてくれるかなー!?」


 大聖堂を改造した特設ステージ。

 宝石を散りばめたドレスに身を包んだ聖女エマが、とびきりの笑顔でウインクを飛ばすと、会場を埋め尽くした数万の民衆が、地鳴りのような歓声を上げました。


「エマ様ー!! 最高ーー!!」

「愛してるぞーー!! 『微笑み神託ブロマイド』、土地を売って全部買ったぞーー!!」


 彼らが血走った目で群がっているのは、家族へのプレゼント品でも生活必需品でもありません。ただの紙切れや、不当に高額な布切れ――すべて「聖女エマ」の公式グッズです。今日のパンを買う金すらグッズにつぎ込み、家庭崩壊を起こす王族や貴族が続出。孤児院への寄付金はすべて「エマの凱旋パレードの舞台セット代」へと消えていきました。


 それでも、誰もエマを責めません。

 エマの持つ「魅了」の魔法。そして何より、彼女自身が持つ「前世の記憶」が、王都の正常な判断力を完全に奪い去っていたからです。


(あはは。ちょろいわね、この世界の連中。というかあたし、まだほとんど魔法を使っていないんだけどね)


 ステージで愛らしく歌い踊りながら、エマは心の中で嘲笑っていました。

 彼女の正体は、現代日本から転生した「国民的トップアイドル」。


 頂点を極めた者だけが知るノウハウ――大衆を扇動する完璧なパフォーマンス、計算し尽くされたファンサービス、そして『推し』のためなら命すら捧げさせるマーケティング技術。それに聖女の魔法が組み合わされば、この世界の人間を依存症にするのは容易いことでした。


(あたしの技術と魔法にかかれば、国を溶かすなんて朝飯前。学院時代からお高くとまっていたノエルみたいな堅物の女には、一生味わえない蜜の味でしょうね)


 歪んだ優越感に浸りながら、エマは最後の曲を歌い上げ、王宮の玉座の間へと戻りました。

 そこは今や、エマを象った彫像や肖像画が並ぶ異様な空間と化しています。その中央でだらしなく頬を緩ませて待っていたのは、第一王子アルフレッドと、この国の国王でした。


「おお……エマ殿! 君の次のドレスには、この王冠の宝石をすべて使ってくれ!」


「父上、抜け駆けはずるいですよ! エマ、僕からは最高級の真珠を君に捧げよう!」


 威厳あるはずの王族が、まるで盲信的なファンのように国庫の財産を競い合って貢いでいる姿。エマは内心で(この国のトップ二人が、すっかりあたしのガチ恋勢ファンになっちゃって)と毒づきました。


「――陛下、殿下。失礼いたします」


 王宮の廊下に、軍靴の硬い音が響き渡ります。

 現れたのは、燃えるようなオレンジ色の短髪を揺らす青年――第12騎士団長、アレンでした。


 彼は名門貴族の嫡男でありながら、その天賦の武才ゆえに、若くして「最も危険な任務」を帯びない特殊な遊撃騎士団の長に抜擢されたエリートです。野性味あふれるワイルドな美形であり、その茶色の瞳には、大型犬のような人懐っこさと、戦場での鋭い光が同居していました。


 重厚な扉を開けたアレンの表情は、いつもの爽やかな笑顔を封印し、険しいものに変わっていました。


「アレンか。エマ様との時間を邪魔するとは何事だ」


「……恐縮ながら。陛下、エマ様の式典における警備任務で、騎士たちの疲弊が限界に達しております。不測の事態を防ぐためにも、人員の再編を具申いたします」


 アレンの茶色の瞳には、王室への絶対的な忠誠心と、本来の任務から乖離していく現状への冷静な危機感が宿っていました。


「俺たちは王国を守る剣。しかるに現在の騎士団は、物品の運搬と列の整理に明け暮れている。これでは国防の要が腐りかねません。さらに言えば……国庫の状況も、看過できぬ段階にあります。ダイヤ百個を調達する余力は、今の王国にはございません」


 アレンの強い言葉に、国王とアルフレッドの表情が凍りつきました。エマの「推し活」のために予算を使い込んだ結果、王国は破綻寸前の危機に落ちいっていました。


「な、なんだと!? エマ様の輝きを止めろというのか!」


「焦るな、父上! 金なら……そうだ、北の『安土』という街が、王国の許可も得ず、不当に富を蓄積しているらしい」


 アルフレッドはアレンを見据え、命じました。


「アレン、お前が向かえ。税を根こそぎ徴収してくるのだ。あそこには調査員としてミツルギが先行しているが……一通の報告も寄越さぬ不気味な街だ」


「安土……税の徴収、ですか」


 アレンは一瞬、眉をひそめました。騎士の本分は国防であり、強引な徴税は本来の流儀ではありません。しかし、続く王子の言葉にアレンの空気が変わりました。


「……ミツルギが、音信不通。あの男がですか?」


「ああ。あれほど万事に隙のない男が、職務を放り出して沈黙を続けるなど異常事態だ。懐柔されたか、あるいは——」


「……なるほど。状況は理解いたしました」


 アレンの茶色の瞳に、それまでの冷めた色から一転、鋭い光が宿りました。

 学院時代、常に自分の一歩先を歩み、その理屈で自分を翻弄してきたあの男。彼が沈黙しているという事実は、アレンにとって見過ごせない「挑発」に近い違和感でした。


「陛下、殿下。了解いたしました。このアレン、直ちに現地へ向かい、税の徴収を果たすとともに、ミツルギが何故沈黙しているのか、その実態を暴いてまいります。奴が真に無能を晒しているというのなら、首根っこを掴んででも連れ戻しましょう」


 アレンは決然とした面持ちで、騎士としての礼を尽くして頭を下げました。


「……ですが殿下。かつてのあなたは、もっと民を思い、俺と共に汗を流してくださっていた。学院時代、あなたやノエル様と一緒に、この国を強固にしようと語り合った日々を、どうかお忘れなきよう」


「……ノエル?」


 かつての婚約者であり、共に机を並べた一つ下の少女の名前。

 しかし、その記憶すらも、エマの魔法とトップアイドルとしての洗練された技術によって塗り替えられていました。


「……あんな魔女の名前を、二度と口にするな。さあ、早く金を持って来い!」


「御意!」


 冷たく吐き捨てられた言葉に、アレンは瞳の奥に複雑な色を滲ませましたが、深く一礼して部屋を去りました。


 エマはその後ろ姿を見送りながら、上目遣いでアルフレッドの瞳を見つめました。


(この世界を全部あたしの色に染めてあげるわ)


 外見だけは煌びやかに着飾った王都。しかしその内側は、聖女という名の毒に蝕まれ、音を立てて崩れ落ちようとしています。


 ――そして数日後。

 誇り高き騎士として北へ向かったアレンは、そこで王都を遥かに凌ぐ「黄金の不夜城」と、それに傅くミツルギ、そして魔王となったノエルの姿を目の当たりにし、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けることになるのです。

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