47 説得してみようと思います
日常のすべてが監視されているような落ち着かなさがあった。
嫌がらせをしてくる人も、嫌味を言ってくる人もいなくなったけど。
友達も近寄れなくなってしまっていた。
ちょっとでも私に近づこうものなら、極悪人を見るような眼差しで相手を見るからだ。
やめていただきたい…
何度も言うけれど、ギルツハークは私のことを心配してくれている。
それがわかっているだけに、やめてほしいと強く言えない。
ギルツハークの不器用な優しさを思うと、きっぱり拒絶することができずにいた。
言いたいことは伝えないといけないのに。
「ねえ、ギル様。その…私のことはあまり気にしなくても大丈夫ですよ。その…トイレはやはり…殿方と一緒に行くのはどうも…恥ずかしいですし」
視線をそらしながら、指先を少しもじもじと動かしてしまう。
トイレくらい1人で行けると何度言ってもついてくるから、本当に恥ずかしい。
周囲の視線を思い浮かべるだけで、頬がじんわり熱くなる。
「何があるかわからないから。君に何かあったら、俺は生きていけない」
ギルツハークが大げさにそう言った。
真剣な目で、まるで当然のように言うものだから、余計に否定しづらい。
大げさだけど、本当にそう思ってくれていることもわかるから困る。
というわけで、アルベルトとエリックに力を借りることにした。
自分ひとりではどうにもならないと判断しての、苦肉の策だった。
いつものカフェで待ち合わせて、お茶を楽しむ。
窓際の席に座り、湯気の立つカップを前にして少しだけ気持ちを落ち着ける。
「まったく。ようやく本音で話せるようになったと思ったら、今度は束縛野郎になっちゃったの?」
アルベルトがため息をつく。
軽口のようでいて、しっかり核心を突いている。
「まあ、ギルツハークのクラウディア嬢に対する思いは、ちょっとアレだったしね」
エリックがやる気なさそうにそう言った。
カップを回しながら、どこか他人事のように見えている。
「そ、束縛って。俺は、ディアを心配しているだけだよ」
ギルツハークがアルベルトにそう言った。
まっすぐな目で反論し、少しも揺らがない。
「でも、クラウディアの友達も寄せつけないんだろ?それではクラウディアが可哀想じゃないか」
アルベルトがキャラメルマキアートを飲む。
カップを傾ける動作は落ち着いているが、言葉は鋭い。
「別に、寄せつけてないわけじゃない。俺がいるから安心してディアを任せてくれているんだ」
ギルツハークはそう思っているらしい。
悪気がない分、余計に話が噛み合わない。
「あのね。か弱い女性が、睨みつけてくる男性を押しのけてまで友達と話せるわけがないだろ?」
エリックが「ギルツハークは黙ってると圧があるんだよ」と付け加えた。
確かに、そうかも。
あの沈黙の圧を思い出すと、少しだけ納得してしまう。
ギルツハークの本心を知るまでは、私もギルツハークに嫌われていると思っていたくらいだ。
黙っているギルツハークは、彼を知らない人からしたら、怖いと感じるかもしれない。
「そもそも、ギルツハークはクラウディア以外の女性を女性と思ってないんだ。どうせ、男を睨むのと同じ感じで睨んでるんだろ?」
アルベルトがからかうように言った。
わざと軽い調子で空気を和らげようとしているのがわかる。
「そんなことはない。女性は女性として見ているが、俺にとって大切なのはディアだけなんだ」
そう言って、ギルツハークが私の手を取った。
温かい指先が触れた瞬間、心臓が小さく跳ねる。
ダメだ。
アルベルトとエリックでも、説得できそうにない。
会話が進むほど、むしろ結論が遠ざかっている気がする。
「ギル様。…私、ギル様に大切にしていただいていることはわかってるんです。でも、私もひとりの時間がほしいし、ギル様以外の方とお話する時間を作りたいんです」
私がそう伝えると、ギルツハークが首を傾げた。
その表情は本気で理解できていない顔だった。




