46 超過保護になってしまいました
学園主催の交流会。
多くの生徒と保護者が集まる華やかな場で、ついに決定的な嫌がらせが起こってしまった。
知らない女性が、ギルツハークが私のところから少しはなれたときに、私のドレスにわざと飲み物をこぼした。
そのうえで、周囲に聞こえる声で言ったのだ。
「まあ、ごめんなさい。でも、こういう場に相応しくない方には少し派手すぎる装いでしたものね」
場が凍った。
その瞬間。
「いい加減にしろ」
低く、鋭い声が響いた。
いつの間にかギルツハークが戻ってきていた。
ドレスに飲み物をこぼした女性を見据え、怒りの表情になっている。
「彼女だけじゃない!クラウディアを侮辱しているやつ!根拠のない噂を流すのはやめろ!」
静かなのに、有無を言わせぬ声。
会場内がシンと静まり返った。
ドレスに飲み物をこぼした女性は、おずおずとギルツハークを見ている。
「わ、わたくしはただ…」
「ただ何だ?」
アルベルトが口を挟む。
どこにいたんだろう?
「証拠もなく嫉妬で騒ぎ立てて、嫌がらせまでしておいて正義ぶってはいけないよ?」
エリックも呆れたように肩をすくめる。
「見苦しいにもほどがある」
これまで彼女が巧妙に隠してきた悪意が、白日の下に晒された瞬間だった。
女性の顔色がみるみる青ざめていく。
「そ、それは…誤解ですわ…!」
そう言ったけれど、そこに、父と母が現れた。
「誤解ですか。そうですか。…どうでしょう。あなたのご両親と1度話をさせてもらえませんか?」
父がそう言って女性に微笑む。
目が怖い。
あれは、父が本気で怒ってるときの雰囲気だ。
我が家は、それなりの家門。
たぶん断れないし、たぶん、彼女の家はそれなりの罰を受けることになるだろう。
女性はガクリと膝から崩れ落ちていった。
ギルツハークは静かに手を差し伸べてくれる。
「大丈夫?」
少し戸惑いながら、その手を掴んだ。
「…はい。あの、どうして?」
悩んだけれど、嫌がらせを受けていたことはギルツハークには相談していなかった。
ギルツハークは重い溜息をついて「なんでも言ってって言ったのに」と呟いた。
「あれだけ学園内で噂になっていたら、気づくよ。さすがの俺も」
そう言われてしまった。
バレていたのか。
「アルベルトとエリックに手伝ってもらって、君の父上と母上にも事情を説明して、わざと、あの嫌がらせをさせたんだ」
そこまで言って、ギルツハークが下を向く。
「ディアを傷つけることになって、ごめん」
そう言われて、申し訳なくなってしまった。
1度ならず2度までも、ギルツハークに心配をかけてしまったのだから。
結果として、彼女は正式に学園側から問題行動を指摘され、社交界でも評判を大きく落とすことになった。
表向きには「品位を欠く行為」とされ厳重注意となったが、その後、自主退学したそうだ。
それから、嫌がらせは本当にピタリとやんだ。
そうして、ギルツハークの私への態度が、おかしくなった。
「ダメだよ。窓際に立ったら危ないから」
日差しの差し込む窓辺に近づいただけで、すぐに声が飛んでくる。
どこかにスナイパーでもいるように警戒する。
「教科書なんて重たいものを持ったらダメじゃないか」
ほんの少し手に取っただけで、即座に制止される。
教科書が重たかったら、辞書なんて持てない。
「トイレに行くときも、俺がついていくから」
トイレ…
その言葉に周囲が一瞬固まるのがわかる。
私がやろうとすることに、いちいち反応してくる。
そして、四六時中、べったり。
やりすぎだ。
かなり過保護であることも、クラスと言わず、学園中に知れ渡る。
「ディア!ディアっ!どこに行ってたんだ!」
教室からひとりで出ようものなら、すごい勢いで探しに来る。
廊下に響く声と足音が、少し大げさなほど切迫している。
「先生に呼ばれて、職員室に行っていただけですよ」
落ち着いてそう伝えても、彼の表情はまだ緊張したままだ。
「俺も行くから、声をかけてね」と言われてしまった。
その場にいた全員が、唖然としているのがわかる。
心配してくれているのはわかってる。
その気持ちが真っ直ぐすぎるほど伝わってくる。
でも、心配しすぎだ。




