45 怒りがおさまらないようです
ギルツハークは、両親より怒ってくれた。
ギルツハークの両親も、怒ってくれた。
嫌がらせにしても、質が悪いと。
学園にも抗議をしてくれたけど、犯人捜しまではしないでほしいと私からお願いした。
おそらく、嫌がらせをした人も、人達も、私が死にそうになるとは思わなかったんだろう。
そこまでの結果になるとは、想像していなかったはずだ。
廊下の空気も、少しだけ静かになった気がする。
もしかしたら、小さな嫌がらせをしていた人とレポートを隠した人は別人で、小さな嫌がらせをすることで、私を殺しかけた人だと疑われたくないのかもしれない。
考えれば考えるほど、いろいろな可能性が浮かんでくる。
なににしても、嫌がらせはなくなったのだ。
学園側は生徒に注意をしてくれると言ってくれたし、危険がないように配慮もすると約束してくれた。
それで、十分だ。
私はそれで十分だったのだけど、ギルツハークの怒りはおさまらなくて。
最終的に、なぜか、どういうわけか。
話が現実離れした方向へ進んでいく。
私とギルツハークが同じクラスになった。
学年の途中でクラス替えなんて異例だ。
そこまでする必要はないと伝えたのだけれど。
ギルツハークを廊下に呼び出して、言葉を選びながら、控えめにそう口にした。
気持ちは嬉しいけど、やりすぎ。
「じゃあ、しっかり犯人を見つけて訴える。それが嫌なら、俺にディアを守らせてほしい」
一歩も引かない強い声で、ギルツハークはそう言われてしまった。
ギルツハークは、古風なところがある。
貴族らしい価値観が芯に残っていて、それが時折まっすぐすぎる形で出てくる。
一度言い出したら、考えを曲げないのをよく知っている。
「…わかりました。ギル様に、護衛をお願いします」
結局、私が折れる。
諦めというより、彼の気持ちごと受け取るしかないという感覚だった。
以前だったら、私が折れるとギルツハークは「わかればいいよ」と言ってフイっとそっぽを向いて終わりだった。
肩をすくめて、少しだけ不機嫌そうに視線を逸らし、それで会話が終わる。
でも今は「よかった」と言って、私の手をとって微笑んでくれる。
指先から伝わる優しさが、以前よりも確かで柔らかい。
私とギルツハークの関係は、以前よりずっとよくなったんだと実感した。
こんな風に微笑んでもらえるなら、私が折れるのも悪くない。
そんな頃、一度おさまった嫌がらせが再開された。
やっぱり母が言うように、ギルツハークはモテるんだろう。
最初は、遠くから聞こえるように放たれる嫌味だけだった。
「やっぱり、婚約破棄も計算だったのかしら」
「かわいそうなふりって、案外効果的なのね」
そんな言葉が廊下や教室でひそやかに囁かれる。
直接名指しはしない。
けれど、誰のことを言っているのかは明白だった。
次第に、それは周囲を巻き込むようになる。
クラウディアが座ろうとした席に先回りして座られたり、授業用の資料がなくなったり、私物が別の場所へ移されていたり。
あからさますぎない、けれど確実に不快な嫌がらせ。
ただ、レポートを隠して私が死にかけたことがあったからか、それほど遠くに隠されることがないというのが、不幸中の幸いと言えるだろうか。
「まあ、ごめんなさい。見えなかったの」
そう言いながらわざと肩をぶつけてくる人もいる。
謝罪の形を取りながら、瞳には一切の反省がない。
「わたくし、ただ心配しているだけですの。ギルツハーク様が騙されていないか」
それはつまり、わざとぶつかったってことだよね、とは思うけど。
まるで正義を貫いてるみたいな言われようで困ってしまった。
クラウディアは策略家。
婚約解消すら利用した。
ギルツハークを手玉に取っている。
そんな根拠のない噂が、少しずつ学園内に広がっていった。
これらの嫌がらせは、ギルツハークがいないところでおこなわれていた。
相談しようかどうしようか悩みながら、以前心配をかけたことを思い出して、ギルツハークには相談できずにいた。
もちろん、傷つかなかったわけではない。
けれど、耐えることにした。
ギルツハークに冷たくあしらわれていたことを思えば、これくらいなんともない。
言い返しても、余計に騒ぎになるだけだと理解していたから。
だが、事態はある日、大きく動く。




