43 一難去ってまた一難のようです
「…まあ、そういう真面目なところも、クラウディアのいいところだよね。ギルツハークに会ったら、伝えておくよ」
アルベルトはそう言って教室からはなれていく。
その背中はすぐに人混みに紛れて見えなくなった。
自分の机とその周辺は探してみたけど、どうやら、ない。
引き出しを何度も開け閉めし、床にも目を走らせる。
捜索範囲を広げてみたけど、やっぱりない。
教室の隅まで歩いてみても、レポートはどこにもない。
無駄だろうなと思ったけど、焼却炉に行ってみた。
ここにあったとしたら、もう燃えているだろう。
そう思いながら、少し焼却炉の中もあさってみたけど、やっぱりみつからなかった。
熱気と灰の匂いがかすかに漂い、指先が少し黒くなる。
先生にどう言ったらいいかしらと思って悩んでいたら、知らない女性が私に話しかけてきた。
「あ、あの…クラウディアさんのレポート、あ、あっちの木に、ひっかけられていましたよ」
視線を合わせないまま、肩をすくめるようにおどおどとそう言った。
誰かに言わされてるんだろうと思った。
その声の震え方が、それをはっきりと示していた。
そうであるなら、私がそこに行かないと、この女性が何か言われるかもしれない。
「…わかりました。わざわざ、ありがとうございます」
女性にそう伝えて、どうせないだろうと思ったけど、言われた木のところに行ってみた。
風に揺れる葉の音が、やけに大きく感じられる。
無いだろうと思っていたレポートが、木に引っかかっている。
しかも崖のところに生えている木に。
わざわざ、こんなところに引っ掛けなくてもいいのに。
そう思いながら、手を伸ばしてみた。
足元は少し不安定で、風が体を押すように吹いている。
掴めそうで、掴めない。
指先が紙の端をかすめるだけで、あと数センチが遠い。
微妙な距離感。
その絶妙な位置に、わざと置かれたようにも見えた。
敵もなかなか、やるものだ。
「ん~…」
声を出して腕を伸ばしてみたけど、どうしても届かない。
レポートが指に触れた気がして、体を乗り出してみた。
その瞬間、足元の感覚がふっと薄れる。
そのまま、落ちてしまって、今に至る。
指に力がはいる。
岩肌か草か分からないものを必死で掴もうとする。
これ、落ちたらまずいよね。
冷静な思考と焦りが同時に浮かぶ。
下を見たけど、木が生い茂っていてどれくらい高いところにいるのかわからない。
一度、落ちてみる?
そんな考えが一瞬よぎった。
もしかしたら、それほど高くないかもしれないし、木が生い茂ってるから大した怪我はしなくてすむかもしれない。
こんな状況だけど冷静でいられているのが不思議だ。
ある意味、現実逃避しちゃってるのかもしれない。
でも、手をはなす勇気はない。
困った…




