42 婚約の真相がわかりました
見つめて、微笑みあう。
なんだか幸せ。
「家同士が決めた婚約ですもの。好きなのかどうか、気がつくのに時間がかかってしまっただけですよ」
私がそう言うと、ギルツハークの顔が真っ赤になった。
耳まで一気に色が変わるのがわかる。
「…?」
「ディアには嘘をつきたくないし、ずっと隠しておくのも。いや、隠してるつもりはないけど、言わなくて、変なタイミングでディアに伝わるのも嫌だから言っちゃうけど」
そう言いながら、ギルツハークは珍しく言葉を選ぶように何度も口を開きかけては閉じた。
普段ならもっと簡潔に話すはずなのに、今日は妙に歯切れが悪い。
「その、別に隠そうとか、そういうつもりじゃなかったんだ。ただ、わざわざ言うほどでもないと思ってたというか…いや、でも結果的に言ってないなら同じに思われるかもしれないし……」
一度言葉を切り、困ったように眉を寄せる。
どうにか誤解なく伝えようとしているのだろうが、その不器用さがかえってギルツハークらしい…といえばそうなんだけど。
「後から他の誰かに聞かされる形になるのも嫌だし、ディアが変に傷ついたり、不安になったりするのも嫌なんだ。だから、その……ちゃんと自分から話した方がいいと思って」
そこまで言ってから、小さく息をつく。
まるで短い告白をする前のような緊張感すら漂っていた。
長い…
もう長い前置きはいいから、話してほしい。
「婚約なんだけど。家同士、両親が決めたわけじゃないんだ。俺が、ディアと婚約したいって両親にお願いしたんだ」
ギルツハークの告白に、固まった。
空気ごと止まったような感覚になる。
「え…?ギル様が、私と婚約したいって、言ったんですか?」
ギルツハークが「そうだよ」と言う。
ギルツハークが婚約したいと思ってくれていたなんて。
もっと前に、学園に入学するより前にそのことを知っていたら、今も婚約者でいられたかもしれない。
「もっと…早く知りたかったです」
以前の私ならきっと微笑んで「そうだったんですね」で終わらせていた。
でも、思ったことは、相手に伝える。
これが、恋人になるときのルールだったから。
「うん。もっと、早く伝えておけばよかった」
ギルツハークが私を抱きしめてくれた。
腕の力が優しくて、背中に体温がじんわり広がる。
キス、するのかな。
そう思ったけど、キスは…しない。
期待してしまった自分が恥ずかしくて、顔が熱くなった。
キスはしなかったけど。
もっと早くギルツハークに甘えていればよかったな、私。
好きな人に抱きしめてもらうだけで、こんなに幸せな気分になれるんだ。
小さな嫌がらせは気になるけど。
それを受けたとしてもギルツハークと一緒に居られる幸せのほうが大きい。
ギルツハークに迷惑をかけないように、受け流して、乗り切ろう。
そう思っていた。
…のだけど。
現在、うっかり死にそうになっている。
風の音が急に強くなって、足元の感覚が消えていく。
崖から足を滑らせて、落ちそうになってしまった。
視界が一気に下へ引っ張られる。
指に力がはいる。
どうしてこんなことになったのか。
風が妙に冷たく、制服の裾がわずかに揺れる中で、私はその状況をうまく呑み込めずにいた。
話は、少し前に戻る。
静かな教室の空気の中で、小さくため息が漏れる。
教科書がない、ノートがないと、物が無くなるのは日常茶飯事。
机の中を探しても、ロッカーを確認しても、いつも何かが足りない。
周囲は慣れているのか気にする様子もないが、私は毎回小さくため息をついてしまう。
今日は、提出するレポートが無くなっていた。
鞄の中を何度も探り、机の上をひっくり返しても、紙の感触はどこにもない。
もっと早くに提出するか、提出するまで持っておくべきだった。
下校時刻も迫っていて、焦りだけが際立つ。
レポートをこれから書き直すのは難しい。
時間の余裕も、気力も、正直なところ残っていない。
もう燃やされている可能性はあるけど、探してみることにした。
「あれ?クラウディア。何か探しているの?」
アルベルトが教室の入口からひょいと顔を出し、軽い調子でこちらを見た。
簡単に事情を説明すると「それ、ギルツハークに言ったの?」と言われた。
「物を隠されていることは伝えてますけど。今日のレポートのことは、まだ伝えていません」
提出期限まで時間もない。
帰ったら伝えますねと言うと「一緒に探すよ」と言ってアルベルトが一緒に探そうとしてくれた。
あいかわらず、優しいお兄さんだなと思う。
「大丈夫ですよ、アルベルト様」
そう言って、断った。
少しだけ距離を置くように、一歩引く。
アルベルトを愛称で呼ぶのは、ずいぶんと前にやめた。
彼も、私を愛称では呼ばなくなっている。
アルベルトはギルツハークの隣の席のフレイアとお付き合いをすることになったのだ。
それも、ギルツハークの紹介で付き合うことになったらしい。
その話を聞いて本当に驚いた。
まさか、ギルツハークが恋のキューピッド役をかって出るなんて思わなかった。
それに、女性を紹介するくらい、アルベルトと仲がよかったなんて知らなかった。
色々と驚いたけど、アルベルトには好きな人がいるんだもの。
だから、たとえ友達といえども、2人きりになるのは避けたい。




