37 アルベルトからの提案に驚きです
1日経ったけど、意味がわからない。
とても驚いたことに、ギルツハークは私が好きらしい。
「…ということなの。どうしましょう」
混乱した私は、アルベルトに相談していた。
カフェのテーブル越しに、手元のカップを無意識にいじる。
「どうしましょうって、ディアはギルツハークのことが好きなんだろ?両想いでよかったじゃん」
そう言われて、なるほどと思う。
理屈としては確かに正しい気がした。
でも、いや。
そうだとして。
アルベルトをまっすぐに見る。
「…なに?」
アルベルトは私が深刻な話をしようとしているのを察してくれた。
表情が少しだけ真面目になる。
「…ギルツハーク様のことは好きです。でも、ギルバート様が私を好きだということを、信じられないんです」
ギルツハークから直接、好きだと言ってもらったのに、私はその言葉を信じられないでいる。
一呼吸おいて、アルベルトが低い声を発した。
「どうしてか聞いていい?」
私を責めるでもなく、椅子の背にもたれず、きちんと向き直って話を聞く体勢をつくってくれた。
その姿勢に少しだけ安心して、誰かに聞いてもらいたかったから、全部吐き出してしまおうと思った。
「ギルバート様は、いつから私のことを好きになったんでしょう?婚約していたときは、私の顔も見たくないというふうだったのに。だから、思ってしまったんです」
そこまで話して、ふうっと息を吐く。
アルベルトは相槌も打たず、じっと私の話を聞いてくれた。
言葉を急かすこともなく、ただ待っている。
「『自分のもの』だったものが、突然そうではなくなって、おしくなったんじゃないかって。つまり…私が好きなわけではなくて。ただ、手放したくないと思っただけ。あるでしょ?そういうこと」
私がそう言うと、アルベルトは「なるほど」と言った。
カップを軽く揺らしながら、窓の外へ視線を一瞬だけ向ける。
「まあ、なんていうか。ギルツハークの自業自得なところはあるけど」
そう言って、アルベルトが頭を掻いている。
少し気まずそうに眉を寄せながら、言葉を選ぶように指先で髪を乱す。
「ディアは、ギルツハークのことが好きなんだよね。信じてあげたら?」
そう言われて、胸が痛んだ。
アルベルトの言うとおりだ。
ギルツハークのことが好きなのに、ギルツハークのことを信じられない。
視線を落とし、膝の上で指を絡める。
そんな私が、婚約していたときは冷たい態度だったくせにと責めるのは間違っている。
頭では理解しているのに、心だけが追いつかない。
「それでも…怖いんです。好きになって、好きだと伝えて、また、冷たい態度に戻ってしまったらと思うと…怖くて…」
言葉が途切れ途切れになると同時に、視界が滲んだ。
気がついたら、ポロポロと涙がこぼれていた。
頬を伝って落ちる雫が止まらない。
アルベルトが驚いて、あたふたしている。
椅子から少し身を乗り出し、慌てて手を振るようにしている。
「あ、ごめん。え?…いやあ、困ったな。俺が泣かせてるみたいになってるから。泣かないで…」
アルベルトが私にハンカチーフを渡してくれた。
少しだけ気まずそうに視線を逸らしながら、それでも傍にいようとしてくれるのが彼らしい。
アルベルトの前で泣きたかったわけじゃないのに、どうしても涙が止まらなくて困ってしまった。
ギルツハークから告白されて、アルベルトに相談して。
アルベルトの前で泣いてしまった日から何日も経ってしまったけれど、何も進んでいない。
時間だけが静かに過ぎていっている。
ギルツハークから話しかけてくることもないし、私から話しかけることもなかった。
でも、このまま避け続けるわけにもいかない。
ギルツハークがどういうつもりかはわからないけど、気持ちを伝えてくれたのだもの。
私はそれにこたえる義務がある。
アルベルトにそう伝えたら、アルベルトは意外なことを言った。
「ギルツハークに好きだと言わなくていいから。喧嘩をしてごらん」
ギルツハークと喧嘩をする。
想像すらしたことのない言葉に、瞬きを繰り返す。
考えてみたら、ギルツハークと喧嘩をするほど話をしたことがなかったかもしれない。
「喧嘩…できるでしょうか」
いつもギルツハークは何も話さないから、喧嘩にもならないんじゃないだろうか。
「自分の気持ちを素直に伝えたら、喧嘩できると思うよ」
アルベルトにそう言われて、少し悩んだ。
でも、ギルツハークにどうこたえたらいいかわからなかったから。
アルベルトに言われたことを、実践してみることにした。




