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婚約者に嫌われているようなので私も別の恋を探してみようと思います  作者: 西園寺百合子


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33/50

33 なぜか不思議な質問をしてきます

きのうのは、なんだったんだろう。

やっぱり、デートみたいだった。

「きのうのデートはどうだった?」

突然後ろから声をかけられて肩が跳ねる。

振り向くと、少し意地悪そうな笑みを浮かべたアルベルトが立っていた。

「テ?!…デートではありません。お礼に…お食事をご一緒しただけで」

慌てて否定するものの、言葉が少しだけ詰まる。

お礼になっていたのかはわからないけど。


「ギルツハーク様は、想い人のためにアクセサリーも買われていたし…」

その場面を思い出すと、胸の奥が少しだけきゅっとなる。

誰かのために選ばれた贈り物。

私が1度も贈られることがなかったプレゼントを、どこかの誰かは貰うんだなと思ったら悲しくなった。

「…つまり、ディアは。ギルツハークのことが好きなんじゃない?」

アルベルトにそう言われて、きょとんとする。

どこからそういう話になったのかしら。


「私がギルツハーク様を?…ええ、前にも言いましたが、幼馴染ですもの」

私がそう答えると、アルベルトが「うん」と頷いた。

一瞬だけ目を伏せて、何かを飲み込むような間があった。

「そうだよね。ディアとギルツハークは幼馴染。だけど、それだけ?俺に対する気持ちとギルツハークに対する気持ちって一緒?」

アルベルトの視線がまっすぐこちらに向く。

いつも軽い調子の彼には珍しく、逃げ道を塞ぐような問いかけだった。


「アルベルトはお友達で、ギルツハーク様は幼馴染だもの。一緒ではないわ?」

「お友達と幼馴染はね、大きなくくりで一緒なの。どこまでいっても、オトモダチ。ディアにとって、ギルツハークは本当に、友達?幼馴染というだけの存在?」

珍しく、アルベルトが食い下がってくる。

でも、ここまで言われたら、さすがの私だってわかる。


アルベルトは私が男性としてギルツハークが好きだと言わせたいんだ。

でもね、それは…私が可哀想。

だって、ギルツハークには私以外に想い人がいるんだもの。

視線の先に、まだ見ぬ誰かの姿を重ねてしまう。

誰か…プレゼントを贈ってもらえる想い人が。

だからせめて、強がりたい。

「ギルツハーク様は、大切な幼馴染ですよ」

言葉を発した瞬間、自分でも驚くほど自然に笑顔が浮かんだ。

これが、精一杯の強がり。


好きな人に好きって言ってもらえない、可哀想な私を、アルベルトに気づかれたくない。

ほんの少しだけ息を整えて、視線を上げる。

「…そっか。俺の勘違いだったね。でも、ギルツハークはどうかな。どう思っているか聞いたことある?」

アルベルトにそう言われて首を傾げる。

「…以前は、婚約者だと思っていると言われました」

記憶を辿ると、淡々としたその声だけがすぐに浮かんでくる。

どう思っているのかと聞いたことはないけど「君は婚約者だから」とはよく言われていた気がする。

親が決めた婚約者だから。


「話題を変えよう!」

アルベルトが突然そう言った。

どうしたのかしら?

「ディアはさ、デートするなら、どこに行きたい?」

アルベルトが突然そんなことを言うから、目を丸くしてしまった。

デートという言葉を聞いて、きのうのイルミネーションを思い出す。

夜の光が揺れていたあの景色が、まぶたの裏にふっと蘇った。

ああいうのがいい。


とくに、これっていうのじゃなくて。

ただ2人で一緒に同じものを見て、同じものを「綺麗だね」って言えたら、それでいい。

アルベルトにそう伝えると「乙女だね」と言われた。

その言葉に一瞬だけ頬が熱くなって、視線を逸らしてしまう。

恥ずかしい…そんなに子どもっぽかったかしら。

「じゃあ、綺麗なものが見られるところに出かけるとかいいよね」

アルベルトがそう言ったから、そうねと答えた。


それから数日後、突然、ギルツハークに声を掛けられた。

廊下の途中で私を待ち構えるようにして、少し息を整えているようだった。

「あ…えっと。エリックが、エリックからこれもらったんだけど。その…君が刺繍が好きって言ってたから」

言葉が途切れ途切れで、視線も落ち着かない。

何を言っているのかわからないけど、震える手に何かのチケットが2枚ある。

よく見たら、刺繍展と書かれていた。

「刺繍展…のチケットをエリック様からいただいたんですか?」

「そう!そうなんだ。これ、2枚あって。よかったら…」

ギルツハークがそう言うから、ため息が漏れた。

わかってない。


立ち上がって、ギルツハークに教えてあげることにする。

一歩近づくと、彼は少しだけ体を強張らせた。

「そういうのは、想い人と一緒に行くものですよ」

ギルツハークの想い人は、刺繍が好きだと言っていた。

きっと、誘ったら喜ぶに違いない。

「でもこれ!…これ、今日のチケットだから」

ギルツハークにそう言われてみると、たしかに今日の分だ。

もしかしたら、想い人とは都合が合わなかったのだろうか。

その可能性を思い浮かべると、少しだけ胸が痛む。

この胸の痛みはなんだろう。


チケットのことに意識を戻す。

無駄にするのももったいないか。

「ありがとうございます。…では、友達と一緒に行かせていただきますわ」

そう言って2枚を受け取ろうとして、ギルツハークが1枚だけを私に渡した。

指先が一瞬だけ迷ったように止まり、慎重に差し出される。

「…?」

「1枚は俺のだから…その、一緒に行こうって、そういうことだよ」

「…ギルツハーク様と、ですか?」

思わず聞き返すと、自分の声が少しだけ高くなる。


「そう。俺と…君で…」

言い切るまでに間があって、その間に彼の耳まで赤くなっていくのが見えた。

意外だ。

ギルツハークって、刺繍がお好きだったのね。

男性でも刺繍が好きな人はいるんだから、そんなに恥ずかしがることないのに。

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