33 なぜか不思議な質問をしてきます
きのうのは、なんだったんだろう。
やっぱり、デートみたいだった。
「きのうのデートはどうだった?」
突然後ろから声をかけられて肩が跳ねる。
振り向くと、少し意地悪そうな笑みを浮かべたアルベルトが立っていた。
「テ?!…デートではありません。お礼に…お食事をご一緒しただけで」
慌てて否定するものの、言葉が少しだけ詰まる。
お礼になっていたのかはわからないけど。
「ギルツハーク様は、想い人のためにアクセサリーも買われていたし…」
その場面を思い出すと、胸の奥が少しだけきゅっとなる。
誰かのために選ばれた贈り物。
私が1度も贈られることがなかったプレゼントを、どこかの誰かは貰うんだなと思ったら悲しくなった。
「…つまり、ディアは。ギルツハークのことが好きなんじゃない?」
アルベルトにそう言われて、きょとんとする。
どこからそういう話になったのかしら。
「私がギルツハーク様を?…ええ、前にも言いましたが、幼馴染ですもの」
私がそう答えると、アルベルトが「うん」と頷いた。
一瞬だけ目を伏せて、何かを飲み込むような間があった。
「そうだよね。ディアとギルツハークは幼馴染。だけど、それだけ?俺に対する気持ちとギルツハークに対する気持ちって一緒?」
アルベルトの視線がまっすぐこちらに向く。
いつも軽い調子の彼には珍しく、逃げ道を塞ぐような問いかけだった。
「アルベルトはお友達で、ギルツハーク様は幼馴染だもの。一緒ではないわ?」
「お友達と幼馴染はね、大きなくくりで一緒なの。どこまでいっても、オトモダチ。ディアにとって、ギルツハークは本当に、友達?幼馴染というだけの存在?」
珍しく、アルベルトが食い下がってくる。
でも、ここまで言われたら、さすがの私だってわかる。
アルベルトは私が男性としてギルツハークが好きだと言わせたいんだ。
でもね、それは…私が可哀想。
だって、ギルツハークには私以外に想い人がいるんだもの。
視線の先に、まだ見ぬ誰かの姿を重ねてしまう。
誰か…プレゼントを贈ってもらえる想い人が。
だからせめて、強がりたい。
「ギルツハーク様は、大切な幼馴染ですよ」
言葉を発した瞬間、自分でも驚くほど自然に笑顔が浮かんだ。
これが、精一杯の強がり。
好きな人に好きって言ってもらえない、可哀想な私を、アルベルトに気づかれたくない。
ほんの少しだけ息を整えて、視線を上げる。
「…そっか。俺の勘違いだったね。でも、ギルツハークはどうかな。どう思っているか聞いたことある?」
アルベルトにそう言われて首を傾げる。
「…以前は、婚約者だと思っていると言われました」
記憶を辿ると、淡々としたその声だけがすぐに浮かんでくる。
どう思っているのかと聞いたことはないけど「君は婚約者だから」とはよく言われていた気がする。
親が決めた婚約者だから。
「話題を変えよう!」
アルベルトが突然そう言った。
どうしたのかしら?
「ディアはさ、デートするなら、どこに行きたい?」
アルベルトが突然そんなことを言うから、目を丸くしてしまった。
デートという言葉を聞いて、きのうのイルミネーションを思い出す。
夜の光が揺れていたあの景色が、まぶたの裏にふっと蘇った。
ああいうのがいい。
とくに、これっていうのじゃなくて。
ただ2人で一緒に同じものを見て、同じものを「綺麗だね」って言えたら、それでいい。
アルベルトにそう伝えると「乙女だね」と言われた。
その言葉に一瞬だけ頬が熱くなって、視線を逸らしてしまう。
恥ずかしい…そんなに子どもっぽかったかしら。
「じゃあ、綺麗なものが見られるところに出かけるとかいいよね」
アルベルトがそう言ったから、そうねと答えた。
それから数日後、突然、ギルツハークに声を掛けられた。
廊下の途中で私を待ち構えるようにして、少し息を整えているようだった。
「あ…えっと。エリックが、エリックからこれもらったんだけど。その…君が刺繍が好きって言ってたから」
言葉が途切れ途切れで、視線も落ち着かない。
何を言っているのかわからないけど、震える手に何かのチケットが2枚ある。
よく見たら、刺繍展と書かれていた。
「刺繍展…のチケットをエリック様からいただいたんですか?」
「そう!そうなんだ。これ、2枚あって。よかったら…」
ギルツハークがそう言うから、ため息が漏れた。
わかってない。
立ち上がって、ギルツハークに教えてあげることにする。
一歩近づくと、彼は少しだけ体を強張らせた。
「そういうのは、想い人と一緒に行くものですよ」
ギルツハークの想い人は、刺繍が好きだと言っていた。
きっと、誘ったら喜ぶに違いない。
「でもこれ!…これ、今日のチケットだから」
ギルツハークにそう言われてみると、たしかに今日の分だ。
もしかしたら、想い人とは都合が合わなかったのだろうか。
その可能性を思い浮かべると、少しだけ胸が痛む。
この胸の痛みはなんだろう。
チケットのことに意識を戻す。
無駄にするのももったいないか。
「ありがとうございます。…では、友達と一緒に行かせていただきますわ」
そう言って2枚を受け取ろうとして、ギルツハークが1枚だけを私に渡した。
指先が一瞬だけ迷ったように止まり、慎重に差し出される。
「…?」
「1枚は俺のだから…その、一緒に行こうって、そういうことだよ」
「…ギルツハーク様と、ですか?」
思わず聞き返すと、自分の声が少しだけ高くなる。
「そう。俺と…君で…」
言い切るまでに間があって、その間に彼の耳まで赤くなっていくのが見えた。
意外だ。
ギルツハークって、刺繍がお好きだったのね。
男性でも刺繍が好きな人はいるんだから、そんなに恥ずかしがることないのに。




