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婚約者に嫌われているようなので私も別の恋を探してみようと思います  作者: 西園寺百合子


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32 デートをしているようで困ります

「そうなのか…ディアは、自分は何色のイメージだと思う?…あ、違うな。何色が好きなの?」

ギルツハークにそう尋ねられて悩んだ。

視線を上げて、考えてみる。

好きな色…

「実は、以前はシルバーって答えていたんです。そう言うように言われていたので」

シルバーはギルツハークの瞳の色だ。

好きな色を尋ねられたら、婚約者の瞳の色だと言うように、花嫁教育を受けていたから。

私がそう言うと、ギルツハークが困ったような顔をした。


「じゃあ、本当は何色が…好きなの?」

ギルツハークにそう言われて「何色でしょう」と答える。

店内に流れる静かな音楽を聴きながら、並んだネックレスに再度、視線を落とした。

赤、青、黄色、白…

色々な色があるのに、すぐに答えられない。

ギルツハークがネックレスを1つ手にとって、じっと見ている。

ガラスケース越しの光がその手元に落ち、白く透明な石がきらりと輝く。


もしかしたら想い人のイメージなのかな。

白くて透明感のある石がついた、シルバーのネックレス。

どうしようかなと思ったけど、ここは背中を押してあげることにした。

「きっと、喜ばれると思いますよ」

そう言うと「そうかな」とギルツハークが目を輝かせた。

本当に好きなんだな。

少しだけ胸が痛んだのは、きっと気のせいだ。


結局、雑貨店でギルツハークはネックレスを買っていた。

包み紙に丁寧に包まれていく様子を、少し離れた場所から見ている。

あんな風にプレゼントを選ぶのね。

…私はもらったことないけど。


カニクリームコロッケの美味しいお店に到着して2人で食事をする。

窓際の席に案内され、料理が運ばれてくると湯気がふわりと立ちのぼった。

「あの…ギルツハーク様はカニクリームコロッケでよかったんですか?」

ずっと気になっていたことを聞いてみた。

「え…ああ。俺は何でも食べるから。その…好き嫌いとかなくて…」

ギルツハークが困ったように食べている。

フォークを動かす手が少しだけぎこちない。


「そうなんですね…その中でもお好きな食べ物って何ですか?」

「え…ああ…好き嫌いはしてはいけないと教えられてきたから。なんだろうね」

ギルツハークはフォークを持ったまま、少しだけ視線を落とし、考え込むように皿の上の料理を見つめていた。

答えを探すというよりも、そもそも好き嫌いという概念そのものを思い出そうとしているような、そんな戸惑いが表情に滲んでいる。

ギルツハークは本当にわからないみたいだ。


好きな色がわからない私と、好きな食べ物がわからないギルツハーク。


「私もギルツハーク様も、教えられたことを守って、守りすぎてしまいましたね」

そう言いながらカニクリームコロッケを食べる。

衣の軽い音が小さく響き、口の中に広がる熱とクリーミーな味わいに思わず目を細めてしまう。

本当に美味しい。

さすがはアルベルトが紹介してくれたお店だ。

「美味しい」

思わず素直な言葉がこぼれると、ギルツハークが静かにこちらを見つめた。


「今度は、俺がお店を探すから、また一緒に食事をしてくれる?」

少しだけ間を置いてから、慎重に選ぶように紡がれた言葉だった。

ぎこちなさと誠実さが混ざったその誘いに、一瞬だけ心が動いた。

ギルツハークに食事に誘われるなんて思わなかった。

「…はっ!」

胸の奥で何かがつながる感覚がして、思わず息をのむ。

わかってしまった。


ギルツハーク、想い人とのデートの予行練習をしたいのね。

…でもそれなら、今日のでいいのじゃないかしら。

1回では不安なのかな?

「ディア。たぶん、君が思っていることと違うけど…どうかな?」

ギルツハークの声は慎重で、焦りも感じられた。

少し悩んで、あいまいに答えておいた。


私といることで想い人が私とギルツハークに何かあると勘違いをしたら、ギルツハークに申し訳がない。

カニクリームコロッケを食べ終わると、アルベルトが教えてくれた帰り道で帰る。

「…うわぁ」

夜の空気に触れた瞬間、思わず感嘆の声が漏れる。


視界いっぱいに広がる光が揺れて、まるで別世界の入口に立っているようだった。

アルベルトが教えてくれた道は、イルミネーションで彩られていた。

「綺麗ですね」

光の粒を見上げながらそう言ってギルツハークを見ると、ちょうど同じように上を見ていた彼と視線が重なった。

「すごく、綺麗…」

その言葉はイルミネーションに向けられたものだとわかっているのに、なぜか胸の奥が少しだけざわついた。

綺麗…なんて、ギルツハークに言われたことなんてない。

うぬぼれてしまうところだった。


「イルミネーションなんて、初めてみますね」

足音を合わせながら、ゆっくりと歩く。

周囲の光が流れるように変わっていき、まるで光に包まれているような不思議な感覚があった。

そんな夢のような空間をギルツハークと一緒に歩いた。

本当にデートみたい。

ギルツハークの家の前まできて「それでは」とお辞儀をする。

「え?…いや、家まで送るよ」

少し慌てたようにギルツハークが一歩踏み出した。

でも、それは断る。


「本当は私がご馳走する予定でしたのに、すっかりご馳走になってしまいましたし。これ以上は申し訳ありませんから」

そう言って何度も断ったけど「もう遅い時間だから」と結局送ってもらってしまった。

夜の静けさの中で並んで歩く足音だけが響き、少しだけ距離の近い影が地面に揺れていた。

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