31 雑貨屋さんに行くことになりました
悩んだ結果、思いつかない。
アルベルトにも聞けばいいと言われたから、ギルツハークに直接聞いてみることにした。
「ちょっと待ってて」アルベルトがギルツハークを呼び出してくれた。
この2人、いつの間に連絡を取り合う関係になっていたんだろう。
「え?…ディアが俺に食事を…奢ってくれる、の?」
ギルツハークが困っている。
あきらかに、嫌だなという雰囲気を出されている。
「いや…それはどうかな。ディアに奢ってもらうのはちょっと」
そう言うとアルベルトがギルツハークの背を軽く叩いた。
「ここは、おとなしく奢られておきなよ。それより、何が食べたいの?」
アルベルトがギルツハークに尋ねた。
よく考えると、ギルツハークと好きな食べ物の話なんかしたことがない。
沈黙。
店内の音だけがやけに大きく聞こえる。
「…え、あぁ。ディアは、何が食べたい?」
ギルツハークにそう尋ねられて首を傾げた。
「ディアが食べたいものを、食べたい」
ギルツハークがそう言って、顔を赤くした。
なぜ、そこで赤くなるのかは謎だ。
「…えっと、私は。カニクリームコロッケ…なんですけど。ギルツハーク様はお好きではないですよね」
困ったように私が言うと、ギルツハークは「それが食べたい」と言った。
「じゃあ、カニクリームコロッケの美味しいお店をディアが探して、ギルツハークがご馳走すればいいじゃないか」
そう言うとギルツハークは「そうしよう」と言う。
なんだか、最初の話とは違う気がするけど、まあいいか。
そんなわけで、お店を探すことになったわけだけど。
もともと外に出ることがなかったから、お店のことなんかよく知らない。
困っていたらアルベルトが相談に乗ってくれて、いくつか候補を出してくれた。
それでも決めかねていると、アルベルトが私に、どんなお店が好きなのか聞いてくれた。
「だったら、ここのお店がいいよ。あ、俺が予約しといてあげる。で、帰りはここに寄って帰ってくるといいよ」
アルベルトがお店に行く前から帰るところまで決めてくれた。
「…ありがとう。なんか、全部決めてもらっちゃって」
私、何もしてない。
「いいよ。ギルツハークに恩を売っておきたいから」
「恩…?」
そう聞き返すと、アルベルトは軽く笑って視線をそらした。
そんなわけで、アルベルトに決めてもらったコースで、ギルツハークと食事に行くことにした。
待ち合わせは、噴水前。
石造りの噴水から水が静かに吹き上がり、細かな水音が周囲に広がっている。
通り過ぎる人の足音や話し声に混じって、その音だけがやけに穏やかに響いていた。
…なんだかデートみたいだ。
噴水前には少し早く着いた、と思ったのだけれど。
広場の時計を確認してから視線を戻すと、すでにギルツハークが待ってくれていた。
私に気がついて、パッと顔が明るくなったように見えた。
少し手を挙げて、すぐに戻している。
そういえば、こうやって待ち合わせをして出かけるのは初めてかもしれない。
いつもはギルツハークが家まで迎えにきてくれるから。
なんだか新鮮だ。
「すみません、早く出たつもりだったのですが。お待たせしてしまって」
今日は私がお礼をするはずなのに、なぜかギルツハークに奢ってもらうことになってしまった。
奢ってもらうという点は変えられないようだから、できるだけ、私が接待しなくては。
「では、参りましょうか」
歩き出すと、足音が石畳に軽く響いた。
カニクリームコロッケが美味しいお店に行く前に、雑貨店に立ち寄る。
通りの角にある小さな店で、ガラス越しに並ぶ小物が光を反射していた。
アルベルトからギルツハークが雑貨好きだと聞いたからだ。
そんなこと、全然知らなかった。
「雑貨…店。なにか、買いたいものでもあるの?」
ギルツハークが入り口で足を止め、店内を覗き込むようにしながら尋ねてくる。
そう尋ねられたから素直に、ギルツハークが雑貨好きだと聞いたのでと答えた。
「俺が?…雑貨…好き…ああ、そう。雑貨、好きなんだ。ディアはこういうの好き?」
そう言って、ギルツハークが熊のぬいぐるみを掴んだ。
棚の隅に置かれたそれを、少しぎこちなく持ち上げて見せる。
「…そうですね。えっと…こういうもののほうが、好きかもしれません」
そう言って、隣にあったネックレスを指さした。
宝石などに強い興味があるわけじゃないけど、やっぱり目がいってしまう。
「もう、ぬいぐるみという歳でもありませんよ」
ぬいぐるみをそっと元の場所に戻しながら言うと、ギルツハークが「そうだね」と言って頭を掻いている。
「ネ、ネックレスとか、やっぱり好きなのか?」
ギルツハークがそう言ってネックレスを手に取る。
指先で慎重に持ち上げ、光にかざすように眺めている。
そういえば、ギルツハークには想い人がいるんだった。
その方のことを考えているのかな。
「ギルツハーク様の好きな方は、何色のイメージなんですか?」
並べられたネックレスを見ながら尋ねる。
「え?イメージ?」
ギルツハークが顔を赤くしている。
視線が一瞬だけ泳ぎ、すぐに逸らされた。
「贈り物でアクセサリーを選ぶときは、相手のイメージの色のものを選ぶと喜ばれますよ」
陳列棚のガラスに映る自分を見ながら、そう教えてあげた。
少しでもフレイアとの仲が進展するといいんだけれど。
そういえば、あれから2人のことはあまり聞けていなかったな。




