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婚約者に嫌われているようなので私も別の恋を探してみようと思います  作者: 西園寺百合子


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27 急な体調不良で困ります

そう決めて、荷物の方へ視線を向けたその時だった。

背後からふいに声がして、肩がわずかに跳ねる。

「あ、もしかしてもう帰ります?…実は一緒に来た奴が先に帰っちゃったみたいで」

そう言って、男性が困っている。

紹介してもらったはずなのに、誰だったか思い出せなくて、少しドギマギした。

「ああ…私も。友達が先に帰ったみたいで。私も帰ろうかなって思ってたんです」

そう伝えると、それなら少しお話でもということになった。

いつの間にか、ほかの人達もいなくなっていた。

残っているのは私たちだけ…

立ち去るタイミングを逃した者同士のような、少し気まずさのある雰囲気になってしまった。


「自由に帰っていい会だったんですね」

片付けが始まっているようだ。

私もそろそろ出たほうがいいんだろうなと思いながら、せっかくなので最後の会話だと思って話を続けた。

そう思っていると「初めてですか?こういう会は」と尋ねられた。

嘘を言っても仕方ないので「はい」と答える。

「へえ…そうなんですか」

男性がそう言って微笑んだ。


男性はエドワードというらしい。

名乗られたときの声はやや控えめで、どこか自信のなさが混じっていた。

聞いたことがない学園の聞いたことがない学科に在籍しているらしい。

「すみません。世間のことには疎くて」

世間のことだけじゃなく、交流についても詳しくないから、私がよく知っていることなんていうのは何もないけど。

視線を落としながら、少しだけ肩をすぼめる。

「いやいや。そんなたいした学園でもないから。あはははは…」

たぶん、私が知らないだけで、たいした学園なんだろう。

エドワードの笑いが乾いている。


「エドワード様は、婚約者はいらっしゃるんですか?」

ここに来た目的は、新しい恋を探すこと。

自分に言い聞かせるようにして、言葉を選びながら尋ねる。

婚約者がいる方と恋はできないから、まずは聞いておかないと。

「え?…それは、俺のこと、気になってるってこと?」

エドワードがそう言った。

一瞬、間が空き、彼の表情がわずかに期待へと傾く。

会話は普通なのに、違和感があった。


女の勘が言ってる。

この人、やめたほうがいい。

「いえ。いらっしゃるのかなって、世間話です」

言葉を丁寧に整えながら、距離を取るように答える。

これ以上、この人と話していても仕方がないみたいだ。

「では、私もそろそろ帰ります」

そう言って立ち上がろうとして、くらっとした。

視界が一瞬だけ揺れ、足元の感覚が薄れる。


「おや?酔っちゃいました?」

エドワードがそう言って、私の体を支える。

酔うわけはない。

お酒は飲んでいないもの。

頭の中で否定だけが繰り返される。

「いえ…立ちくらみ…?お天気頭痛かも…?」

お酒も飲んでいないのに、頭がぐるぐるする。

視界の端がぼやけて、音も遠くなるように感じる。

「…すみません。家に連絡を。あ、えっと…」

だんだん頭の回転が鈍くなって、考えがまとまらなくなってきた。

言葉をつなぐだけで精一杯になっていく。


「大変だね。少し、休もうか。近くにゆっくりできる場所があるから」

そう言って歩かされる。

支えられているはずなのに、どこか主導権を握られているような違和感。

できることなら、ここにじっとしていたい。

動かされると体がつらい。

足が思うように前へ出ない。

そう伝えたいけど、もう声も出せなくなっていた。


これはあれかも。

貧血。

回らない頭で必死に、どうでもいいことを考えていた。

やっぱり、頭が回っていないんだ。


こんなところで貧血になってしまうなんて。

自分の不調を悔やむように、ぼんやりと考える。

エドワードにも迷惑をかけて申し訳ないわ。

そう思っているのに、どうしても体が言うことをきいてくれなかった。

建物から出ようとしている。

外の空気が少しだけ冷たく感じる。


私の荷物はどうするのかしら。

呼び止められているけれど、エドワードが「後から取りにくるから」と伝えているようだ。

その声はやけに自然で、断る余地を与えない響きをしていた。

「もうすぐ、2人きりでゆっくりできる場所につくからね」

エドワードが私の体を支えながらそう言った。

どこに連れて行ってくれるんだろう。

そう思ってるのに、不安が大きくなっている。

きっと親切で言ってくれているんだろうと思う。

それなのに、このままついていってはいけないような気がしている。


なんとか自分で体を支えることができれば、声が出せれば、介抱を断ることができるのに。

思うように動かない身体に、もどかしさだけが積もっていく。

そうこうしているうちに、どこかの建物の前に来た。

見上げると知らない扉が目の前にある。

「ここで、ゆっくりできるから」

そう言われて、少しホッとしてしまったのかもしれない。

緊張がわずかに緩む感覚があった。

まぶたが重くて、目を閉じてしまった。

そのまま意識がゆっくりと沈んでいく。

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