26 異性間交流会に参加してみました
いつもヘラヘラしているアルベルトが真顔で言うから、少し悩んだけど。
来ちゃった。
会場の前に立つと、少しだけ緊張で背筋が伸びる。
だって、友達が私のためにと開いてくれた会なのだもの。
私が不参加なのは申し訳ない。
入口の明かりを見上げながら、言い出しっぺが行かないのはダメだよねという気持ちが勝っていた。
そんなわけで、一応、パジャマも持ってきた。
手に提げた荷物を見下ろしながら、小さく頷く。
ちょっとだけ、パジャマパーティーへの参加も期待している。
友達とのお泊りなんて、どれくらいぶりかしら。
ほんの少しだけ胸が弾んでいた。
会場は遠いと思ったけど、車で15分のところだった。
思ったよりもずっと近くて、少し拍子抜けする。
これで1泊になるとは思えないけど…
あらためて建物を見上げながら、首を傾げる。
会場の前で待っていると、友達がぞろぞろとやってきた。
笑い声とともに次々と人が集まり、空気が一気に賑やかになる。
「え?クラウディアさん、その荷物どうしたの?」
そう言われて、他の皆が身一つで来ていることに逆に驚く。
「え?…その、泊まりになるかもって言われたから着替えとか…」
そう言うと「やだぁ、クラウディアさんったら」「お持ち帰りされる気満々じゃない」と言われてしまった。
周囲でくすくすと笑いが広がる。
お持ち帰り?
料理がテイクアウトができるのかしら。
ああ、お泊りだから。
宿に食事がついていないタイプなのかも。
料理をテイクアウトして、宿でみんなで食べるのは楽しいかもしれない。
みんなの後に続くように会場に入る。
扉を開けると、少しだけ空気が変わった気がした。
荷物は入口で預けることができた。
係の人が丁寧に対応してくれる。
「あ…けっこう、大きいお荷物ですので。こちらに置かせていただいてもよろしいですか?」
お店の人が申し訳なさそうに入口近くの台を指差した。
視線が少し気遣うようにこちらへ向けられている。
「はい。すみませんがお願いします」
少し手間取ったけど、先に会場内に入った友達のあとに急いだ。
みんな、それほど荷物を持ってきていないみたいだ。
周囲を見回しながら、少しだけ浮いている気がして肩をすくめる。
会場には男女12人ほどがいて、もう交流を始めているみたいだった。
扉を開けた瞬間、ふわりと華やかな香水と食事の香りが漂う。
明るい照明の下、着飾った男女が小さな輪をいくつも作り、楽しそうに談笑していた。
グラスの触れ合う音や、軽やかな音楽まで混ざり合って、場の空気は思った以上に賑やかだった。
もともと交流が広いわけではないから、こういうときどうすればいいかわからない。
社交的に笑って輪の中へ入るべきなのか。
それとも、誰かに話しかけられるのを待つべきなのか。
正解がわからず、場違いなところへ来てしまったような心細さが胸に広がる。
入口付近で立ち止まり、飲み物をいただいて、壁際で様子をうかがうことにした。
グラスを両手で持ちながら、少し距離を取る。
ひんやりしたグラスの冷たさだけが、少しだけ緊張を和らげてくれた。
近くでは、すでに盛り上がっているグループがあるようだ。
「えっ、じゃあ特選科なんですか?」
「そうなんです。法学専攻で」
「素敵!じゃあ、将来は弁護士とかを目指すんですか?」
初対面とは思えないほど自然な会話が繰り広げられている。
「いや、剣術は得意なんだけど、恋愛戦は苦手でね」
別の場所では、男性が冗談を言っているようだ。
それに女性たちが笑う。
すごい。
みんな、こういう場に慣れているのだろうか。
私は愛想笑いすらぎこちなくなりそうなのに。
ときどき友達が呼んでくれて、参加者に紹介してもらう。
「クラウディア、この方は商学部のレオン様」
そう紹介されて、挨拶をする。
「はじめまして」
商学部と言われても、全然かかわりがない部だからピンとこない。
確か、税理士とかを目指す人がいると聞いたことがあるけど。
「はじめまして、クラウディア嬢。お噂はかねがね」
お噂って何かしら。
少しだけ顔が引きつりそうになる。
「こちらは音楽学科のマリアンヌさん」
「よろしくお願いします」
「まあ、お綺麗な方」
男性の参加者だけでなく、女性の参加者にも丁寧に紹介してもらえた。
そのたびに軽く会釈をして挨拶を繰り返す。
笑顔を作って、無難な言葉を返して。
天気や趣味、学科の話。
当たり障りのないやり取りを何度も続ける。
「趣味は?」
「刺繍です」
「おしとやかなんですね」
褒められているはずなのに、どこか表面的で、少し疲れる。
全員と挨拶が終わると、やることがなくなってしまった。
手持ち無沙汰のまま、視線だけがさまよう。
疲れたからちょうどいいかと、壁際に戻り、そっと息を吐く。
こういう場では、自分から積極的に話しかけないといけないのだろう。
でも、誰に?
どうやって?
悩んでいると、近くで女性たちの会話が聞こえてきた。
「さっきの方、すごく素敵じゃなかった?」
「背が高い人?」
「そうそう。ちょっと強引そうだけど」
「でも、ああいう人って頼りになりそうよね」
恋愛市場、という言葉が頭をよぎる。
ここでは、皆それぞれ相手を見定めているのだ。
男性陣も負けていなかった。
「君、すごく話しやすいね」
「本当ですか?」
「うん。ぜひゆっくりお茶でも」
…早い。
展開が早すぎる。
「クラウディアさんは、気になる方いないの?」
いつの間にか隣に来ていた友達にそう聞かれ、思わず固まる。
「えっ」
「せっかくなんだから、もっと話してみたら?」
そう言って、背中を押された。
そう言われても、気になる相手というより、まだ緊張のほうが勝っている。
「いえ、その……」
言葉を濁しているうちに、友達は別の会話へ行ってしまった。
置いていかれたような気分になる。
「ん…?」
ふと違和感に気づいて、会場を見回す。
最初に会場に入ってきたときは12人いると思っていたけど、6人になってる。
人数が減っていることに気づき、首を傾げる。
「あれ…?」
さっきまでいたはずの数人が見当たらない。
女性も男性も、いくつかの姿が消えている。
もしかして、自由に帰っていい会だったのかしら。
そう思っていると、近くにいた女性二人の会話が耳に入った。
「えっ、もう二人で移動したの?」
「そうみたい。気が合ったらしいわ」
「早くない?」
「でも、そういうものなんじゃない?」
…移動?
さらに別の男性が笑いながら言っている。
「お、あっちは抜け駆けか?」
「いい雰囲気だったしな」
「今夜は長そうだね」
一気に嫌な予感がした。
もしかして、置いてけぼりにされた?
みんなもう、パジャマパーティーの会場に移動したのかもしれない。
「…なんだ」
そうならそうと、教えてくれればいいのに。
友達もいなくなってるみたいだし、帰ろう。




