21 フレイアは手ごわそうです
これは、チャンスなのでは?
心の中で小さく拳を握るようにして、姿勢を正す。
「それでしたら、フレイア様がギルツハーク様を元気づけてあげるのはいかがでしょうか?」
そう言って、フレイアの手を取る。
これはフレイアが、ギルツハークを優しく包み込むチャンスに違いないと心の中で叫んだ。
頑張って、フレイア。
今こそあなたの優しさで彼を救う時。
ただフレイアの手を取っただけだけど、内心ではまるで舞台袖から主演女優を応援する観客のような気持ちで、そっと彼女にエールを送っていた。
どうかその心配そうな眼差しが、ギルツハークのささくれだった心にふわりと届きますように、と。
「え?私が?…なぜ、私が?」
フレイアがちょっと引いている。
椅子の背に軽く身を引き、困ったように瞬きを繰り返す。
思っていた反応と違うから、私もちょっと戸惑った。
でも、ここで私まで引くわけにはいかない。
握った手に少しだけ力を込める。
「それはもちろん、ギルツハーク様とお隣の席仲間だからですわ!」
なんとかして、ギルツハークとフレイアが仲良くなれるように応援しないと。
声が少しだけ明るくなるよう意識しながら、必死に笑顔を作る。
この反応を見るに、フレイアはギルツハークのことを心配はしているが、恋心は抱いていない。
やっぱり、うまくいっていないんだろう。
少しでもフレイアがギルツハークを好きになるようにフォローしなくては。
使命感が生まれた。
それから、ときどきフレイアに会って、ギルツハークのおすすめポイントをプレゼンしてみた。
まるで地道な営業活動のように、私は機会をみつけては懲りずに挑み中。
カフェの片隅や廊下でフレイアを見かけては、少しずつ話す。
偶然を装いながら自然にプレゼンする努力は、もはや自分でも褒めたいほどだった。
「ギルツハーク様は真面目なところがいいですよね」
「そう?真面目過ぎて面白みがないわ」
まあ、それは否定できない。
真面目さは美徳だが、確かに恋愛市場では時として爆発力に欠けるのかもしれない。
フレイアは面白い人が好きなんだろうか。
「で、でも誠実とも言えますし、信頼できますよね」
「誠実なのは素敵だけれど、それだけで心が動くわけでもないでしょう?」
ぐうの音も出ない。
私は曖昧に微笑みながら、内心で静かに一敗を刻んだ。
誠実だけではダメなんだ。
「ギルツハーク様って文武両道ですよね」
今度こそどうだ、と少しだけ胸を張る。
勉学も優秀、運動も優秀。かなり強いカードのはずだ。
私ったら、これを最初にもってくるべきだった。
今度こそ、と意気込んだのだけれど。
「そうですね。どちらも優れていらっしゃるけど、人の価値ってそこではないと思うわ」
フレイアは、意外と手ごわい。
しかも、だいたい正論。
「た、確かに……でも努力家ということでもありますし」
「努力家なのは立派ね。でも、努力をひけらかさない人の方が私は素敵だと思うの」
またしても綺麗に返される。
むしろ彼女の価値観の方に感心してしまいそうになる。
ただ言わせてもらえば、ギルツハークは決してひけらかしているわけじゃない。
「あと、お顔も整っていらっしゃいますし」
真面目路線がダメならと、少し俗っぽい方向から攻めてみる。
「顔だけで判断するのは浅くないかしら?」
フレイアの正論の連撃が止まらない。
もはや私はプレゼンをしているのか、人格を鍛えられているのかわからなくなってきた。
だがしかし。
フレイアもギルツハークはカッコいいと思っていることはわかった。
「優しいところもありますよ」
「それは知っているわ。でも優しさにも相性があるでしょう?」
鉄壁か?
っていうか、優しさの相性ってなにかしら。
今まで相性なんて考えたこともなかったけれど、恋愛にはそういうのも必要なのね。
内心で小さくため息をつく。
ギルツハークの魅力を伝えたいだけなのに、そのたびにこちらの語彙と精神力が試される。
けれど、簡単に折れるわけにはいかない。
フレイアにギルツハークの良さがもっと伝われば、きっと未来は変わるはず。
そう信じて私は今日もまた、新たなおすすめポイントを探しながら、密かに次のプレゼン作戦を練るのだった。
そんなわけで、私の努力が実ることはなく、2人の仲が進展しているとはいいがたい。
応援すると言ったのに、応援になっていなくて申し訳ない。




