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婚約者に嫌われているようなので私も別の恋を探してみようと思います  作者: 西園寺百合子


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20 好きな人のヒントをゲットしました

胸の奥が少しだけ沈む感覚を覚えながら、紅茶の表面に映る自分の顔を見つめる。

「…あ、あんまり相手と上手くいってないみたいだから、ギルツハークには言わないでね」

エリックにそう言われて、ぴくっと反応した。

ギルツハーク、好きな人と上手くいっていないんだ。

視線が一瞬だけテーブルの木目に落ちる。

「その、ギルツハーク様の好きな方って…どんな方なんですか?」

私がそう尋ねると、エリックがとても困った顔をした。

眉間にしわを寄せ、視線を横に逸らしながら口元を曖昧に動かす。

そんなに困る質問をしただろうか?


「いやだから、俺からは…」

エリックはそう言ったけど、ヒントだけでもと何度もお願いしてみた。

身を少し前に乗り出し、手を軽く合わせながら食い下がる。

それで、同じ学年であることと、刺繍が得意な子であることを教えてもらえた。

偶然にも私と同じ、刺繍が好きな方だったなんて。

膝の上の手がぎゅっと軽く握る。


「はっ!」

そこで気がついてしまった。

背筋がわずかに伸び、目が見開かれる。

ポーチを渡したときギルツハークが喜んだのは、ポーチに刺繍をしてあったからかもしれない。

指先で布の感触を思い出すように、無意識に手を握り直す。

彼女に渡したら喜ぶだろうと思って、微笑んだんだろう。

その場面が頭の中で何度も再生される。


そういうことか。

胸の奥で静かに答えが形になる。

本当にその女性は、ギルツハークに愛されているのね。

紅茶の表面が小さく揺れるのを見つめたまま、まばたきを一度する。


でも、上手くいっていないなんて。

よく考えれば、想い人に元婚約者が作ったポーチを渡す時点で、ギルツハークは間違ってる。

女心がわかっていないのね。

そうか、だから、上手くいっていないんだ。

これは、私が全力で応援するしかないわ。

小さく息を吸い直す。


ギルツハークと同じ学年で刺繍が得意な人。

すぐに見つかると思ったけど、意外にも刺繍が得意な人って多かった。

淑女の嗜みだものね。

だいたいの人がやっていて、だいたいの人が得意。

机の向こう側でも針と糸を扱う人の姿がいくつも目に入る。

全然、誰なのかわからない。


カフェで刺繍をしながら同学年の女性に目がいってしまう。

「まあ、素敵な刺繍ですね」

キョロキョロしていると、突然声を掛けられた。

驚いて肩がわずかに跳ねる。

「え?…ああ、ありがとうございます」

見上げると、とても綺麗な女性が私を見下ろしていた。

柔らかい光を受けて、髪が淡く輝いている。

「それ、鷹ですよね。本当にお上手ですね。鷹といえば…ギルツハーク様の家紋ですよね」

女性にそう言われて、そういえばそうだったなと思った。

針を持つ手が一瞬止まり、視線だけが刺繍へ落ちる。

でも、よくギルツハークの家の家紋を知ってたな。


こんなことをいうのも、だけど。

ギルツハークの家は、それほど大きな家ではない。

それでもご存知だったというのは、もしかして…

「あの、もしかして、ギルツハーク様のお知り合いですか?」

少し身を乗り出すようにして尋ねる。

「ええ、同じ学年で。今は、隣の席なんですよ」

そう言って微笑んだ。

自然な笑みが、静かにこちらへ向けられる。

上品で綺麗。

淑女って、こういう方のことをいうんじゃないかしら。


「あ、私ったら、ご挨拶がまだでしたよね。フレイアと申します」

美しい女性の名前は、フレイアというらしい。

丁寧に頭を下げる仕草にも品がある。

「はっ!」

思いついてしまった。

何かが一気に繋がる感覚がする。


「もしかして、フレイア様は刺繍がお得意ですか?」

そう尋ねると、フレイアは「ええ、まあ…」と答えてくれた。

指先を軽く揃え、少し控えめに頷く。

間違いない。

ギルツハークの好きな相手は、フレイアに違いない。

「フレイア様はギルツハーク様と仲がいいんですか?」

思い切って尋ねてみた。

息を飲むようにして返事を待つ。


「ええ…そうですね。まあ、お隣の席ですし…ていうか、ギルツハーク様の元婚約者の方ですよね?」

フレイアが探るように私を見ている。

「はい。でも、元、も・と、婚約者で、今はぜんぜん、何も関係がない知人ですから、私のことはご心配なく」

私の存在がギルツハークの迷惑になってはいけない。

そう心の中でぶんぶん首を振りながら、不自然にカップの中の飲み物をゆっくりかき混ぜた。

スプーンが控えめにカチャカチャと鳴るたび、気持ちが揺れ動いている気もする。


私が見定めているのか、私が見定められているのか。

ドキドキしながら、チラッとフレイアを見た。

ともかくも、ここで変に誤解されるわけにはいかない。

ギルツハークの未来のためにも、私は静かなる撤退、元婚約者で今は知人の立場を貫くのだ。

「まあ、そうなんですか?…ギルツハーク様、最近、女子生徒からの厳しい態度で、とても落ち込んでいらっしゃいますよ」

そう言って心配そうな顔をしている。

その話は知っているけど、私が出しゃばらないほうがいいと静観しているやつだ。

でも、フレイアは両手を膝の上で軽く組み、少し眉を下げてこちらを見る。

本当にフレイアはギルツハークを心配しているのだろう。

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