02 いいこと考えるなと思ってしまいました
次の問題は、私に相手がいないことだ。
ギルツハークと婚約してから、男友達すらいなかった。
友達と遊ぶことより、ギルツハークの助けとなるための勉強をするのを優先していた。
それが淑女として当然だと思っていたから。
思い返せば、ギルツハークの結婚相手として完璧になることしか考えてこなかった。
料理も裁縫も、化粧も洋服選びも全部。
ギルツハークが喜びそうなものを選んでいた気がする。
「私の好きなタイプ…か」
ぼんやりと教室から窓の外を見た。
どんな男性が好きかと言われれば、やっぱりギルツハークみたいなタイプになってしまう。
頼りがいがあって、男らしくて、銀色の髪が綺麗で、肌も綺麗で。
何にでも一生懸命で、負けず嫌いで、ときどき頑固で。
頭の中に言葉が浮かぶたびに、無意識に指を折って数えるような仕草をしていた。
窓から差し込む光が机の上にゆっくり揺れていて、教室のざわめきが遠くに聞こえている。
ギルツハークが好きなところを考えていて、ふと思い出した。
こっそり、チョコレートを食べて嬉しそうな顔をするところ。
その場面を思い出して、胸の奥が少しだけ温かくなって、思わず頬がゆるむ。
…って、それはギルツハークのことだ。
今、考えているのは私の好きなタイプだった。
折っていた指から、視線をそっと窓の外へ逃がした。
風に揺れる木々だけが、何も知らないまま静かに動いている。
私のタイプ、タイプ…
あらためて考えると、私に好きな男性のタイプがない。
机に肘をつきながら小さくため息をついて、視線を天井へ向ける。
白い天井の模様がやけに遠く感じられた。
がっかりする。
どうしよう…恋愛って、どうやってするんだっけ?
誰かに教わったことがあるわけでもなく、頭の中で答えを探しては空回りする。
相手の見つけ方がわからない。
教室の中にいる生徒たちの顔を、意味もなく一人ひとり追ってしまう。
椅子がきしむ音やページをめくる音がやけに大きく感じられた。
って、ちょっと探したくらいで好きな人って見つかるものなんだろうか?
顔とか姿が好みだったら、好きになれるんだっけ?
自分で自分に問いかけて、すぐにその無謀さに気づいてしまう。
簡単に好きな人を探せそうにない。
本当はカフェとかで開催される交流会に参加したほうがいいんだろうけど。
男友達すらいない私には、まだ早い気がする。
想像しただけで少し気後れして、机の上の手がそわそわと動いた。
これは、マズイ。
私の相手が見つからないと、完璧な円満婚約解消ができない…
お互いに好きな人ができたから婚約解消…これこそが、目指すべき円満婚約解消なのに。
机の上で拳を軽く握りしめて、理想の流れを頭の中でイメージしてみた。
好きな相手すら、見つけられないなんて。
うまくいかない現実に焦りが募る。
「…あ、そういえば」
ぽつりと声に出すと思い出して、図書室へ急ぐ。
椅子を引く音が少し大きく響いて、小走り気味に廊下へ出た。
目指すは、図書室。
淑女たるもの、読書と刺繍という趣味は欠かせない。
そんなわけで、図書室は私にとっては第2の教室でもあった。
図書室のドアを開けると、右側の壁に大きなポスターが貼ってある。
紙が少し反っていて、端がふわりと浮いているのが目に入る。
長い間貼ってあったのに、こうしてしっかりと見るのは初めてかもしれない。
『本を読んで会話を楽しむ会』
整った文字がやけに目立って見えた。
誰でも参加できるこの会は、男女の出会いの場としても知られている。
社交的ではない、私のような男女に好評なのだと、図書館で耳にしたことがあった。
「まずは、これに参加してみましょう」
小さく決意するように呟いて、ポスターを見上げる。
本を読むのは嫌いじゃない。
ページをめくる感覚を思い出して、少しだけ落ち着く。
あくまでも、淑女の嗜みとして読んでいただけだから、大好きでもないけど。
とりあえず、1歩前進してみようと決めた。




