13 別居婚になるようで困惑してます
アルベルトに家まで送ってもらう。
「今日はありがとう、アル」
私がそう伝えると、アルベルトが軽く手を振る。
「どういたしまして。今度は、本当の恋人になってデートしようね」
いつものように、冗談なのか本気なのかわからない口調でそう言って帰っていった。
アルベルトは、本当にいい人だ。
疑似デートが終わると、改めて問題と向き合わなくてはいけなくなった。
別居婚か…
アルベルトとカフェで作戦会議をしている。
これまでは、ギルツハークと私にそれぞれ好きな人ができて、婚約を解消したいと言えばいいと思っていた。
ところがなんと、ギルツハークは婚約を解消するつもりはないと言い出したのだ。
それは、愛人を囲う、別居婚のため。
円満婚約解消計画は破綻した。
アルベルトは「破綻しちゃったね」と笑っている。
「笑い事ではありません、アル。円満婚約解消計画は無くなってしまったんです」
私は泣きそうなのに。
「ああ…ごめん、ごめん。そんな顔しないでよ。…で、別居婚?、するの?」
アルベルトに言われて、視線を落としながら悩む。
「ギルツハーク様のお役に立ちたいとは思ってるんです。でも…別居婚ということは、私は他の人と結婚できないってことですよね。ギルツハーク様がいない家で…ひとり」
そこまで言って、喉の奥が詰まり、また涙が出そうになって、声が出せなくなった。
未来の自分の姿を思い浮かべて、胸の奥がきゅっとする。
「それは、ギルツハークがいないから寂しいの?それとも、ひとりでいるのが寂しい?」
アルベルトにそう尋ねられて、私はゆっくり首を傾げた。
「同じではないですか?」
「全然違うよ。ギルツハークがいなくても、誰かが一緒にいてくれれば寂しくないって話ならね」
アルベルトが座りなおす。
椅子の脚が床を小さく擦る音がした。
「ギルツハークが家に帰ってこないなら、ほかの誰かと一緒に住めばいいだろ?」
アルベルトが言っている意味がわからない。
視界の中で言葉だけが浮いている。
「その家で、ギルツハークの代わりに、俺がディアと一緒にいたら、どう?」
そう尋ねられて、それは毎日が楽しそうだと思った。
胸の奥に、少しだけ温かい想像が広がる。
ああ、そういうことか。
私が寂しいと感じているのは、ギルツハークが私のことを嫌いだったからじゃない。
かといって、私のほかに、想い人がいたからでもないんだ。
ひとりでいたくないと、そう思っているだけなんだ。
ギルツハークのためとか言って、自分がひとりになるのが寂しかっただけ。
私のこの思いは、恋や愛と言えるんだろうか。
「アルは、私の気持ちに気がついていたんですか?」
思ったより、私は冷静だ。
声も震えていないのが少し不思議だった。
「そうだね。もしかしたらそうかなって、思っただけ。ごめんね、傷つけた」
アルベルトがそう言って、ハンカチを私に渡す。
どうしてハンカチ?
そう思っていたら、ポタっとテーブルに液体が…涙が落ちた。
自分でも気づかないうちに視界が滲んでいた。
いつの間に泣いていたんだろう。
慌ててハンカチで涙を拭う。
「違うんです。自分で自分の気持ちに気づいてなかったことに驚いて…そっか。私、ギルツハーク様のこと好きなわけじゃなかったんですね」
ひどい…私は、ギルツハークになんてヒドイことを。
婚約をやりなおしたいと言っているのを聞いたとき、ギルツハークはなんてヒドイ人なんだろうと思った。
応援するとか言いながら、心のどこかでギルツハークのことを恨んでいた。
でも、私にそんな資格なかったんだ。
ギルツハークのことをなんとも思っていない私のことを、ギルツハークはいつも守ってくれていたのに。
自分の気持ちを知って、なんだか色々と吹っ切れた。
涙のあとで視界が少しだけクリアになる。
別居婚、いいじゃないか。
それで、ギルツハークが想い人と幸せになれるならいい。
私は私で、一緒にいたいと思う人を探してもいいし。
たぶん、アルベルトは一生の友達でいてくれる気がする。
だって、恋人のフリまでしようとしてくれたんだもん。




