12 初めてのお店で緊張します
そんな疑問を抱えながら、書店に入る。
これまでのお店とは違って、静かな空間だった。
紙の香りと整然と並ぶ背表紙。
図書室みたいだ。
「ここは落ち着きます…これまでのお店よりは」
私がそう言うと、アルベルトがくすっと笑った。
「そういう正直なところさ…」
アルベルトがそこまで言って、言葉を濁した。
なんだろうと思いながら、本棚の本を見た。
恋愛小説、歴史書、詩集。
互いにおすすめを紹介し合ったりした。
「アルベルト様って、冒険小説がお好きなんですね」
私がそう尋ねると「意外?」と首を傾げて見せた。
「最初にお会いした時、化学?に興味があるっておっしゃっていたでしょ?」
私がそう言うと、アルベルトが渋い顔をした。
「あれは、ディアが化学書の前に立っていたからだよ」
そう言われて笑ってしまった。
本を手にしながら、ふと思う。
もしギルツハークとこうして本を選んだら、どんな会話になるのだろう。
ギルツハークが選ぶとしたら、授業参考書か…
少しだけ、ため息が漏れた。
想像できない。
ギルツハークが何を読むのか、私、知らないんだ。
「ちょっと休憩しようか」
アルベルトがそう言ってカフェに連れていってくれる。
いつもの学園の隣にあるカフェじゃない。
テラス席がある、おしゃれカフェだ。
…学園の隣にあるカフェもおしゃれだけどね。
そんなおしゃれなテラス席で、焼きたてのスコーンと香り高い紅茶をいただく。
一気に、淑女感が出た。
「こういうの、憧れてた?」
アルベルトの問いに、私は少しだけ黙る。
「憧れ、というか。こういうのが似合う女性になるように、教育を受けていました」
そう伝えると、アルベルトは静かに「そっか」と言った。
「じゃあ、淑女教育では、こんな食べ方教わってないよね」
そう言って、アルベルトが焼きたてのスコーンをそのまま頬張った。
驚いて、目をぱちくりさせる。
通常は、スコーンを半分に割って、生クリームやジャムをトッピングしていただく。
「うん、おいひぃ…」
口いっぱいにスコーンを頬張るアルベルトを見て、またまた笑ってしまった。
「ディアは、頑張りすぎてるんだよ」
アルベルトのその言葉が、胸に沁みる。
頑張りすぎ、か。
そうだったかも。
淑女にならなければ、ギルツハークの良いお嫁さんにならなければと頑張っていた。
「そうですね」
私がそう言うと「次は、俺の買い物に付き合って」とアルベルトが香水店に連れていってくれた。
これまた、私とは縁がない。
というか、男性も香水ってつけるんだ。
爽やかな柑橘系や華やかなフローラル系の香りが漂っている。
…ちょっと、苦手かも。
そんなことを思いながら、アルベルトが香りを試しているのを見ていた。
「これはどうかな?女性的に」
アルベルトがそう言って私に香りを嗅がせた。
「少し甘すぎます…私には、ですが」
私がそう言うと、「じゃあ、こっちは?」と別の香りを嗅がせてくれた。
「…さっきよりは、好きです」
「ふうん。こういう香りか。男っぽい感じが好きなんだね」
アルベルトにそう言われて、そうかなと首を傾げた。
それから、雑貨店に行って色々な雑貨を見る。
正直、クタクタだ。
こんなにお店を回ったことも、こんなに歩いたこともなかった。
一日中歩き回り、気づけば街は柔らかな橙色に染まっている。
ガラス窓が夕陽を反射し、昼間とはまた違う幻想的な雰囲気を作り出していた。
「今日はどうだった?」
アルベルトが穏やかに尋ねる。
「とても、楽しかったです」
心からそう思った。
疑似デートだったけど、まるで本当のデートみたいだった。
「ならよかった」
アルベルトが少しだけ優しく笑う。
「楽しかったこと、ギルツハークにも教えてあげるといいよ」
アルベルトがとんでもないことを言った。
「ギルツハーク様にですか?」
「今日行ったお店、全部人気店だから。ギルツハークって、そういうお店知らなさそうだろ?教えてあげたら、喜ぶと思うよ。ほら…愛人候補?の人と行きたいかも、だろ?」
アルベルトに言われて、複雑な気持ちになる。
ギルツハークには幸せになってもらいたいし、想い人とも上手くいってほしいと思っている。
でも、私が楽しかったことを、その人と体験されるのは…なんか嫌だ。
そんな気持ちをアルベルトには知られたくなかったから「そうですね」とだけ伝えておいた。




