13 ギルツハークとのデートの思い出はありません
「うん、いい感じ」
今日は学園はお休みだけど、学園の隣のカフェでまったりしながら刺繍をしている。
呼んでないのにアルベルトがきて、私が刺繍しているところを見ていた。
「ところでさ」
アルベルトが突然私に話しかけてきた。
「どうして、ディアは自分で色々と考えるの?…円満婚約解消、とか」
そう尋ねられて、手を休める。
「今はお休みしてるんですけど、以前は花嫁修業をしてたんです」
私がそう言うと、ふむふむとアルベルトが相槌を打ってくれる。
「その先生に1度相談したことがあって。ギルツハーク様って無表情で無口で何を考えているかわからないから、どう接したらいいかわからないって」
アルベルトが「それはいい質問だね」と言った。
「そうしたらその先生が、察しなさいって言ったんです」
アルベルトが首を傾げる。
「婚約者たるもの、相手が何を伝えたいのか察することが大切だと教えられました。いちいち何を考えているのか相手に聞いてはいけないって」
そう言われて、父と母のことを思い出した。
先生の言うとおり、父のことを母はよくわかっている。
ああいう関係になれということだと、その時の私は理解したのだ。
「ああ…それは。その先生が…あれだね」
アルベルトが苦笑している。
ふと、視線を下におろした。
「サンタクロースにトナカイか」
私が刺繍しているものがわかったようでよかった。
「もうすぐクリスマスマーケットがあるから、そこで配るポーチを作るお手伝いをしてるんです」
私の趣味が刺繍だと知っている友達の1人に頼まれたものだった。
「へえ。クリスマスマーケットに行くと、これがプレゼントでもらえるんだ。俺も行こうかな」
アルベルトがそう言って笑った。
「クリスマスと言えば、ギルツハークとはどこかに出かけるの?」
そう尋ねられて、少し困る。
「ギルツハーク様とは毎年どこにも行かないので」
「え?クリスマスなのに?」
アルベルトが驚いている。
「クリスマスは、私の家でクリスマスケーキを食べて…解散です」
そう伝えると、アルベルトが目を丸くした。
「いや…いや、え?クリスマスデートは?プレゼント交換とか…」
「ギルツハーク様は出かけるのが苦手みたいで。普段から外でデートはしないんです」
私がそう言うと「プレゼントは?」と尋ねる。
「1度、贈ろうとしたことがあったんですけど。クリスマスのプレゼントは子どもがもらうものだからと断られてしまって。ギルツハーク様にいただかないのに、私がおねだりするのは…ちょっと…」
「いや、おねだりなんてしなくても…婚約者にクリスマスプレゼントも渡さないなんて」
アルベルトがそう言って、私の代わりに怒ってくれた。




