四極の共闘と、絶対貫通の雷槍
「――《深淵の泥》ッ!」
ノクスが漆黒の魔導書を開き、冷たい声で命じる。
巨大な古の魔竜の足元に広がる影が、底なしの沼のように変貌し、竜の巨体を絡め取ってその動きを強引に停止させた。
「今だよ、テラ!」
「任せなッ! 《大地の牙》ッ!!」
アクアの合図とともに、テラが両拳を闘技場の石畳に叩きつける。
ノクスの影に縫い止められた魔竜の周囲から、家屋ほどもある巨大な岩の槍が次々と隆起し、竜の胴体や四肢に突き刺さった。
『ギャルルルルルルルッ!!』
魔竜が苛立ちの咆哮を上げる。
そこへ、上空からシルフィが狙い澄ました風の絶技を放った。
「その硬そうな鱗、一枚残らず引っぺがしてあげるわ! 《風神の断頭刃》ッ!」
空気を極限まで圧縮した不可視の巨大なギロチンが、魔竜の首元へと容赦なく振り下ろされる。
水、土、風、闇。四人の天才美少女たちの息の合った連携は、並のSランク冒険者パーティすら凌駕するほどの圧倒的な制圧力を持っていた。
しかし。
ガキィィィィィィンッ!!!
「嘘っ……!?」
シルフィが驚愕に目を見開いた。
彼女の放った最強クラスの風の刃は、魔竜の黒い鱗に触れた瞬間、硬いガラスにでもぶつかったかのように甲高い音を立てて粉々に砕け散ってしまったのだ。
テラの岩槍も、竜が少し身じろぎしただけで飴細工のようにボロボロと崩れ落ちていく。
「無駄だ無駄だぁッ!」
上空に浮遊する闇ギルドのリーダーが、狂ったような哄笑を上げた。
「古の魔竜の鱗は、あらゆる現代魔法の干渉を弾き返す『絶対魔力耐性』を持っている! 小娘どもの魔法など、そよ風にも劣るわ! さあ魔竜様、あの小賢しい羽虫どもを消し炭にしておしまいなさい!」
『ゴォォォォォォォォォォォッ!!!』
魔竜が大きく口を開けた。
その顎の奥で、ドス黒い瘴気と極大の熱量が圧縮され、最悪の『竜の息吹』が放たれようとしていた。
狙いは、魔竜の目の前に立ち塞がる四人の少女たちと、その後ろで逃げ遅れている生徒たち。
「しまっ……! 防げないわ!」
「みんな、私を盾にして!」
シルフィが風の障壁を張り、アクアが前に出て何重もの水の結界を展開しようとする。だが、どう見てもあのブレスの質量を防ぎきれるものではない。
その絶望の瞬間。
「――どけ」
静かだが、闘技場の喧騒を切り裂くような凛とした声が響いた。
四人の少女たちの前に、左腕に『キャパシタシールド』を構えたハヤトが躍り出た。
『ゴアァァァァァァァァァァッ!!!』
魔竜の口から、闘技場を丸ごと消し飛ばすほどの極太の黒炎ブレスが放たれる。
(熱量、速度、破壊力……そんなものは関係ない!)
ハヤトは脳をよぎる一切の計算を捨てた。
盾を前に突き出し、そこに自分の『願い』のすべてを込める。
相手の力がどれほど巨大であろうと、魔法の理において最も強いのは、揺るぎない『イメージの強要』だ。
「――喰らい尽くせッ!!」
バチィィィィィィィィィィッ!!!
ハヤトの盾から放たれた青白い雷撃が、瞬時に巨大な『光の網』となって展開された。
直進してくる黒炎のブレスと、ハヤトの雷の網が激突する。
通常なら、ハヤトごと消し飛ばされて終わるはずの質量差。しかし、ハヤトの雷はブレスを力で押し返すのではなく、ブレスそのものを『包み込み』、空へと受け流す巨大なパイプのように機能したのだ。
ズギュウゥゥゥゥゥンッ!!!
黒炎のブレスはハヤトの雷の網に絡め取られ、軌道を上空へと大きくねじ曲げられた。空に放たれた黒い炎が、雲を吹き飛ばして巨大な花火のように散っていく。
「な……んだと!? 魔竜様のブレスを、逸らした!?」
闇ギルドのリーダーが目を剥く。
「ハヤト……!」
「ハヤト君ッ!」
背後で息を呑む四人に、ハヤトは振り返らずに叫んだ。
「あいつの鱗が魔法を弾くなら、鱗ごと貫く『究極の一点』を作るしかない! 俺が最高の一撃を見舞う。だから……あいつの動きを止めて、俺に道をくれッ!!」
ハヤトの言葉に、四人の少女たちの瞳に再び強い光が宿った。
学園の頂点に立つ彼女たちは、Fランクだったハヤトの実力と、その背中の大きさを誰よりも理解している。彼が「貫く」と言うのなら、絶対に貫くのだ。
「フフッ……いいわ。最高の舞台を用意してあげる」
ノクスが微笑み、魔導書を高く掲げる。
「《深淵の泥》・最大出力!」
再び影が沼となり、今度は魔竜の巨体を半分まで地中に引きずり込み、完全に身動きを封じた。
「アタシの大地で、ガッチリ縛ってやるよッ!」
テラが地面を叩き、魔竜の首と四肢を極太の土の鎖で何重にも拘束する。
「なら、私はその分厚い瘴気を洗い流すっ!」
アクアが両手を天に掲げると、空から浄化の力を持った清らかな水の滝が降り注ぎ、魔竜を纏っていたドス黒い瘴気を一気に洗い流していく。
「ハヤトッ! あんたのための『道』よ、真っ直ぐ行きなさいッ!!」
最後にシルフィが両腕を振り下ろす。
ハヤトと魔竜の胸元の間にある空気の抵抗を完全に排除した、真空のトンネルが形成された。
水、土、風、闇。
四人の天才たちが全魔力を結集して作り上げた、完璧なる『突破口』。
「……ありがとよ、みんなッ!」
ハヤトは右手に、全身全霊の魔力を集束させた。
空間を包み込む網ではない。今彼が世界に命じるのは、万物を貫き、一切の耐性を許さない、絶対的な『矛』の概念。
「――一点突破。すべてを穿つ、光の槍となれッ!!」
バチバチバチィィィィィィッ!!!
ハヤトの右腕が、直視できないほどの眩い雷光に包まれた。
彼は大地を蹴り、シルフィが作った真空の道を、一本の雷の槍となって疾走する。
「や、やらせるかァッ!」
闇ギルドの魔術師たちが妨害の魔法を放とうとするが、遅い。
「――《極光の雷槍》ッ!!!」
ハヤトの右の拳が、絶対魔力耐性を持つはずの魔竜の胸の鱗に深々と突き立てられた。
物理的な衝撃ではなく、概念としての『貫通』。
甲高い破砕音とともに、黒い鱗が砕け散る。
ドバキィィィィィィィィィンッ!!!!!
そして、ハヤトの拳から放たれた極太の青白い雷撃が、魔竜の巨体を内部から完全に貫き、その背中から天に向かって巨大な雷の柱となって吹き抜けたのだった。




