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肉と卵、成長への助走


旧坑道ダンジョンからの帰還後、王都の冒険者ギルドは夕刻の喧騒に包まれていた。

討伐したゴブリンや坑道猟犬の素材を換金し、ガルドの前に積まれた銀貨はかなりの額になっていた。




「よし、これで今回の報酬は四等分だ。……ほらよ、ハヤト」




ガルドが銀貨の山から四分の一を無造作に掴み、ハヤトの前に押し出した。




「えっ? ちょっと待ってください。俺はただの荷物持ちで、日当は銀貨三枚の約束じゃ……」




ハヤトが慌てて手を振るが、ガルドは全く意に介さない。




「馬鹿言え。お前の索敵とあの《エレキ・バインド》とかいう技がなきゃ、俺たちは猟犬の群れに食い破られてたかもしれないんだ。立派なパーティの功労者だ」




「でも……」




「受け取っときなよ、ハヤト君」




隣に座っていたリアナが、ハヤトの背中をバンッと気兼ねなく叩いた。




「あんたはもう、私の命の恩人で立派な戦友なんだから。足手まといの弟分扱いしてたこと、本当にごめんね。これからは対等な仲間として、背中を任せるよ」




リアナはそう言って、照れ隠しのようにウインクした。

勇者パーティにいた頃は、どれだけ罠を見抜き、どれだけ魔法のノイズ(摩擦熱)を引き受けても、報酬どころか感謝の言葉すらもらったことはなかった。

目の前に積まれた銀貨の冷たい輝きが、ハヤトにはたまらなく暖かく見えた。




「ハヤト、お前さえ良ければ、明日からも俺たちと組まないか?」




ガルドが大ジョッキの麦酒をあおりながら、真剣な目でハヤトを見た。




「お前の『戦場をコントロールする力』は、俺の盾と最高に相性がいい。即席のパーティじゃなく、正式にうちのメンバーに入ってほしい」




ハヤトは、ガルド、リアナ、そして微笑んで頷くミナの顔を順番に見渡した。




「……はい。俺で良ければ、よろしくお願いします」




ハヤトが深く頭を下げると、三人は嬉しそうに顔を見合わせ、ジョッキやカップを高く掲げた。




「よし、決まりだ! 今日は俺の奢りだ、好きなだけ飲み食いしろ!」




「やった! 私、焼き鳥十本追加ね!」




酒場のウェイトレスが次々と料理を運んでくる。

ハヤトも空腹を感じ、カゴに入った硬い黒パンと、薄い野菜のスープに手を伸ばそうとした。

──その時だった。




ドンッ!!




ハヤトの目の前に、山盛りの分厚いステーキ肉と、ゆで卵が五つも乗った巨大な木皿が置かれた。




「えっ?」




「ハヤト君。今日からあなたの食事は、私が徹底的に管理します」




ミナが腕を組み、有無を言わさない眼差しでハヤトを見下ろしていた。

その瞳は、いつものおっとりとした治癒士のものではなく、壊れた魔導具を修理しようとする職人のように鋭い。




「あ、あの……俺、こんなにたくさん食べられ──」




「食べてもらいます」




ミナの言葉は静かだったが、逆らえない圧があった。




「戦闘中、あなたの背中から溢れる『熱』を感じました。あれは、あなたの魔力(出力)に対して、体を構成する器(筋肉や血管)が細すぎるせいで起きている現象です。今のままでは、またすぐに熱暴走を起こします」




ミナの分析は、まさに電気工学における『ジュール熱による導線の焼損』を直感的に言い当てていた。




「治癒術は傷を治せますが、栄養までは作り出せません。あなたの身体のスペックを引き上げるには、良質なタンパク質と脂質を大量に摂取し、壊して、修復させる必要があります。さあ、残さず食べてください」




『くくっ。良い治癒士じゃな。彼女の言う通り、ハードウェアの拡張こそが、次なる要件じゃ』




視界の端で、教授が『生体バッテリー拡張計画』という青いウィンドウを面白そうに展開している。




「……うぅっ」




ハヤトは覚悟を決め、フォークとナイフを手に取って分厚い肉に噛み付いた。

口いっぱいに広がる肉汁と旨味。

勇者パーティで与えられていた残飯とは比べ物にならない、本物の食事。




「がんばれハヤト! 食わなきゃ男はデカくならないぞ!」




「水ならいくらでも注いであげるからねー」




ガルドが背中をバンバン叩き、リアナが笑いながらコップに水を並べる。

ミナは満足そうに頷き、ハヤトの皿にさらに卵を追加した。




(……死ぬほど、きつい)




胃袋が破裂しそうになりながらも、ハヤトは必死に肉を胃に流し込んだ。

だが、不思議と嫌な気はしなかった。

搾取されるだけの『避雷針』だった少年が、初めて自分を認めてくれる仲間と出会い、そして強くなるための『血肉(ハードウェアの拡張)』を得たのだ。




『食って、寝て、筋肉をつけい。そしてお前の生体回路が拡張された時、次なる法則ルールを解禁しようではないか』




網膜に映る教授の言葉と共に、ハヤトは残りの肉を口に押し込んだ。

最弱と蔑まれていた少年の、理系タンクとしての肉体改造と、最強への成り上がりの助走が、ここから本格的に幕を開けるのだった。

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