蓄電の真価と、守り抜く意志
王都のギルドへ戻ったエレキ・ストライドの一行を待っていたのは、休む間もない緊急依頼だった。
魔王軍の幹部であるザガースが倒された直後、各地で混乱に乗じた魔物の大移動が観測されているという。
その中でも特に、王都の北側に位置する補給拠点へ向かっている魔物の大隊を叩くという任務は、Bランクの彼らにとって相応しいものだった。
「いいか、全員。連携を忘れるなよ」
戦場へ向かう馬車の中で、ハヤトは左腕に装着した『キャパシタシールド』の革ベルトを締め直した。
以前の自分とは違う。ただ一人で突っ込んで敵を倒すのではない。ガルドから受け継いだ鋼の意志と、仲間たちとの強固な信頼を土台にした、新しい防御の要だ。
「わかってるわ。ハヤトが全部受け止めてくれるなら、私たちは心置きなく火力を叩き込めるもの」
セレスティアが杖を優雅に回し、リアナとミナもそれぞれ武器を手に気合を入れる。かつてのような殺伐とした空気は消え、そこには信頼という名の回路が通っていた。
谷の入り口で待ち構えていたのは、数百体規模の魔物の群れだった。
前方には、鈍く光る鎧を纏った魔騎士たちが、一斉に突撃してくる。
「ハヤト、突っ込んで!」
リアナの指示に、ハヤトは迷わず前方へ飛び出した。
以前と違い、今度は背後に仲間がいることを信じて疑わない。
「接地開始!」
ハヤトは疾走する勢いのまま、キャパシタシールドの底面を強引に地面へ叩きつけた。
ガシャンッという重低音と共に、盾に内蔵された可動式の接地杭が、硬い岩盤の奥深くまで突き刺さる。
途端に、魔騎士たちが放った魔力の衝撃波が盾を襲う。
ドォォォォンッ!!
盾の表面を覆う『ガルドの鋼』が、物理的な突き上げを完璧に受け流す。そして盾の内部にある『コンデンサ』が、魔騎士たちの魔法が放つ不規則なエネルギーの波を、次々と自らの内部へ吸い上げていく。
以前なら、これだけの衝撃を一人で受ければハヤトの筋肉が悲鳴を上げていた。だが今は、接地杭を通じて過剰なエネルギーが大地へと逃がされ、自身の身体にかかる負担が最小限に抑えられている。
「……いいぞ。これなら、いくらでも受け止められる」
ハヤトは盾越しに魔騎士たちの配置を確認する。
視界の端では、魔力ノイズが盾のメーターを赤く塗り替えていく。この蓄積された膨大なエネルギーを、次は反撃の力に変える。
「ミナ、今だ! 回路を開放してくれ!」
「はいっ、全魔力を込めます!」
ハヤトの右腕に、ミナの生命力溢れる魔力が注ぎ込まれる。
ハヤトはキャパシタシールドに溜め込まれた魔力ノイズの残滓と、仲間から託された魔力を、右腕の導線を通じて圧縮した。
「電位変換、開始。……殲滅する!」
ハヤトが放った電撃は、もはや制御を失った暴発ではない。
盾がノイズを清流し、仲間がエネルギーを供給し、ハヤトがそのすべてを導き出した、極めて精密な破壊の閃光。
一直線に伸びた閃光は、密集していた魔騎士の列を、鎧ごと焼き切りながら貫通していった。
「すげぇ……。これが、ガルドの魂と、お前の計算が合わさった力か」
戦況を後方から眺めていた他の冒険者たちが、信じられないものを見る目で呟いている。
かつては「使い捨ての魔法使い」と呼ばれたハヤトが、今や味方を護り、敵の力を奪い、それを力に変えて殲滅する「最強の盾」へと変貌していた。
戦闘が終わった後、ハヤトは突き刺した杭を引き抜き、盾を背中に戻した。
左腕はまだ痛む。だが、その痛みはガルドが守り抜いた誇りと同じ重さとして、ハヤトの中に刻まれていた。
「お疲れ様。腕の調子は大丈夫?」
リアナが駆け寄り、盾の重みで少し下がったハヤトの左肩を支えた。
ハヤトは首を横に振る。
「問題ありません。……このキャパシタシールドは、俺の傲慢さじゃなく、皆さんの想いを溜めるためにあるんだって、ようやく理解できましたから」
その言葉に、リアナは少し照れくさそうに笑い、セレスティアとミナも安堵の表情を見せた。
盾の製作過程で、ある一つの回路のつながりが不備になることはなかった。
物理的な衝撃、電気的な負荷、そして何より感情のすれ違い。すべてがキャパシタシールドと仲間という名の回路の中で調和し、一つの大きな力へと昇華されている。
「さあ、王都へ戻りましょう。今回の功績で、また一つランクアップできるはずです」
ハヤトはガルドの遺志を宿した盾を、誇らしげに掲げた。
まだ魔王軍との決戦は始まったばかりだ。しかし、この強固な絆と、進化し続けるシステムがあれば、どんな絶望をも弾き返せると確信していた。
王都へと帰還する馬車の中で、ハヤトは改めて盾を見つめる。
黒い装甲の奥で、かすかに脈動するキャパシタの鼓動。それは、決して短絡することのない、仲間たちの温かい繋がりそのものだった。




