繋がった回路と、双盾の超電磁砲(レールガン)
絶望的な魔力圧の前に、誰もが死を覚悟した。
しかし、ハヤトはうつむいたまま、静かに立ち上がった。
その目から涙は消え、代わりに、氷のように冷たく、そして純粋な『論理への集中』だけが宿っていた。
「……ミナさん。リアナさん。セレスティア様」
ハヤトの静かで、しかし確かな力を持った声が響く。
「俺一人じゃ、ダメでした。……俺のシステムは、皆さんがいなきゃ不完全な欠陥品です。
だから……力を貸してください。俺と、もう一度回路を作ってくれ」
その言葉に、壁際で震えていた少女たちが弾かれたように顔を上げた。
リアナが歯を食いしばり、立ち上がる。セレスティアが杖を握り直す。そしてミナが、涙を拭って走り出した。
「当たり前じゃない……! 私たちは、パーティでしょ!」
三人の少女たちが、一斉にハヤトの周囲へと駆け寄り、その身体に力強く触れた。
背中からミナが。右からセレスティアが。左からリアナが。
乙女たちの体温と、決死の覚悟が伝わってくる。かつて大氷原の扉を開いた時と同じ、最強の『並列回路』が再び構築されたのだ。
「……無駄な足掻きを。まとめて消し飛べ」
ザガースが最大級の絶死の魔法を放とうと、宙に浮き上がる。
Aランクの悪魔が展開する絶対の魔力障壁。生半可な攻撃では、あの障壁に触れることすらできずに弾かれるだろう。
『マスター。あの絶対障壁を物理的に貫通させるには、生半可な速度では不可能じゃ。音速を遥かに超える、極限の運動エネルギーが必要となる』
ハヤトの網膜で、教授が『ローレンツ力』の公式を展開する。
F=IBL
『電流 I と磁束密度 B が生み出す力 F によって弾体を加速させる超電磁砲。この終端速度を劇的に引き上げるための絶対条件は一つ。弾体が加速し続けるための“距離”を、どこまでも長くすることじゃ!』
「分かってる」
ハヤトは、血まみれの右手で、自分の左腕から外れて落ちていた黒い『キャパシタシールド』を拾い上げた。
そして、ガルドの遺体の傍らに転がっていた、半分溶けかかった『鋼鉄の大盾』の残骸を拾う。
ハヤトは、ガルドの鋼鉄の盾と、自分の蓄電大盾を、地面に「真っ直ぐ平行に」並べて突き立てた。
それはまるで、天に向かって伸びる巨大な「二本のレール」だった。
「ガルドさんの盾と、俺の盾。……この二つを繋げて、最長の加速回路を作る!」
ハヤトは右腕のガントレットから太い銅線を引き出し、二つの盾に接続する。
そして、盾と盾の間に、自身の分銅(鉄の塊)をセットした。
「ミナさん! 俺の体に蓄積される限界以上のノイズを、全部大地に逃がしてくれ!」
「はいっ!全部逃がします!」
「リアナさん、セレスティア様! 二人の魔力を全部、俺の生体バッテリーに注ぎ込んでください! コンデンサの残量と合わせて、俺の身体ごと極限の電流に変換します!」
「全魔力、持っていきなさい!」
「ハヤト、絶対にあいつをぶっ飛ばして!」
三人の少女たちから、かつてないほどの莫大なエネルギーと、祈りのような想いがハヤトへと流れ込んでくる。
ハヤトは、ガルドの血で染まった地面に力強く足を踏み締め、二つの大盾の間にセットした分銅を見据えた。
「システム・全結合……ッ!」
ハヤトの身体を中心に、青白い稲妻が嵐のように荒れ狂う。
蓄電大盾に溜まっていたキマイラの雷撃エネルギー。三人の少女から注ぎ込まれた魔力。そしてハヤト自身の生命力。
そのすべてが、並べられた「二つの大盾」に向かって、大河のように流れ込んだ。
バチィィィィィィィィィィィンッ!!!!
規格外の大電流が流れることで生み出された、超強烈な磁界。
ローレンツ力の法則に従い、二つの大盾の間に挟まれた鉄の分銅が、爆発的な推力を得て前進を開始する。
ガルドの盾と、ハヤトの盾。二つの盾が合わさることで生まれた長大な加速レールの中で、分銅の速度は音速を超え、さらにその数倍へと跳ね上がっていく。
「なに……!? なんだその異常な魔力集中は……!」
空中のザガースが、初めて驚愕に顔を歪め、絶対防御の魔力障壁を何重にも展開した。
しかし、遅い。
「これで……終わりだァァァッ!!」
二つの盾の先端から、光の槍が放たれた。
大気をプラズマ化させながら飛翔する超音速の質量弾。
それは、ザガースの展開した絶対障壁をまるで薄紙のように容易く貫き、悪魔の身体のど真ん中を、王都の夜空の雲ごと完全に真っ二つに消し飛ばした。
「バカ、な……。人間の、しかもこんな……ガキに……」
ザガースの残骸が燃え上がり、灰となって夜風に消えていく。
後には、一直線に雲が晴れ、月明かりが差し込む夜空だけが残されていた。
「……はぁっ……はぁっ……」
ハヤトの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。
それを、ミナ、リアナ、セレスティアの三人が、しっかりと抱き留めた。誰もが涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
「やった……やったよ、ハヤト君……っ」
「バカ……! 本当に、無茶ばっかりして……!」
ハヤトは仲間たちの温もりを感じながら、足元で赤熱して煙を上げる二つの大盾を見つめた。
ガルドの鋼鉄の盾と、ハヤトの黒い盾。
二つが並び立つことで、最強の悪魔すら打ち倒す力を生み出した。
「ガルドさん……。俺たち、勝ちましたよ……」
ハヤトの呟きは夜風に溶け、静かになった王都に、悲しくも誇り高いエレキ・ストライドの勝利が刻まれたのだった。




