無視された連携と、乙女たちの不満
轟鳴の谷の中腹。
魔物の群れを次々と蹴散らしていくエレキ・ストライドの進軍速度は、かつてないほど速かった。
その中心にいるのは、紛れもなくハヤトだった。
彼は常にパーティの先頭を歩き、敵の攻撃を一切避けることなく、すべてキャパシタシールドで受け止めては吸収していく。
「ハヤト、右から魔狼の群れが来るわよ!」
「俺が止めます。リアナさんとセレスティア様は、俺の背後から適当に最大火力を撃ち続けてください。魔法のノイズは全部俺の盾で吸収してチャージに回すので、暴発の心配はいりませんよ」
ハヤトは後ろを振り向くことすらなく、淡々と指示を出した。
その言葉通り、彼が前に立っている限り、魔法の暴発リスクはゼロになる。後衛はただ安全圏から魔法を連パなしていればいいだけの、完全な作業と化していた。
だが、その後ろ姿を見つめる三人の少女たちの顔には、明確な苛立ちが浮かんでいた。
「……なーにが『適当に撃ち続けてください』よ。私たちをただの固定砲台かなんかだと思ってるわけ?」
リアナが短剣をくるくると弄びながら、不満げに舌打ちをした。
「そうね。前までは私たちが魔法を撃つタイミングを細かく合わせて、被害が出ないようにカバーし合っていたのに。今はただ、あいつの真っ黒な盾の後ろに立っているだけじゃない」
セレスティアも杖を構えたまま、面白くなさそうにハヤトの広い背中を睨みつける。
何よりも彼女たちを苛立たせているのは、ハヤトが戦闘中に一度も「自分たちを頼らなくなった」ことだ。
かつてのハヤトは、常に周囲の状況を確認し、限界ギリギリのところでミナにアースを頼み、リアナやセレスティアと連携して回路を構築していた。そこには泥臭いが確かな「繋がり」があった。
しかし今のハヤトは、筋肉を強制収縮させて無表情のまま敵の攻撃を受け止め、淡々と盾のメーター(蓄電量)を確認するばかりだ。
「ハヤト君……さっきから、攻撃をわざと受けてる気がします……」
ミナが心配そうにガルドの袖を引いた。
「ああ、お前の言う通りだ。あいつはボスのために盾の容量をマックスにしたいからって、本来なら避けるべきかすり傷まで全部自分から当たりにいってやがる」
ガルドは渋い顔でハヤトの背中を見つめた。
盾役の基本である「いなし」や「受け流し」を完全に放棄し、ただ絶対の容量に物を言わせて真正面から受け止めるだけの力任せの戦法。
それは、自らの肉体へのダメージの蓄積を軽視した、極めて危険な兆候だった。
「おいハヤト! いい加減にしろ! 盾の限界が来なくたって、お前の足腰の筋肉が悲鳴を上げ始めてるぞ! 少しは攻撃を逸らせ!」
「ガルドさん、心配しすぎです。筋肉のダメージは電気信号で痛覚を麻痺させて強制的に動かしてるので、戦闘行動に支障はありません。システムは正常に稼働しています」
ハヤトは振り返らずに、巨大な魔獣の突進を盾で受け止めながら答えた。
痛覚の麻痺。それはつまり、自分の体が壊れていくサインを自ら無視しているということだ。
「ちっ……頭でっかちの理屈野郎が。力がついた途端にこれかよ」
ガルドが忌々しそうに舌打ちをする。
谷の奥深くから、ついに目標であるボス、ストーム・キマイラの地鳴りのような咆哮が響き渡ってきた。
盾の容量はすでに90%近くまで溜まっている。
だが、パーティの連携という見えない回路は、ハヤトの傲慢さによって完全に断線しかかっていた。




