魔力ノイズのフィルターと、傲慢な防壁
王都の冒険者ギルド。
その奥にあるギルドマスターの執務室で、ハヤトたちエレキ・ストライドの面々は、一枚の羊皮紙をテーブルに突きつけられていた。
「お前たちに、ギルド公式の昇格試験を受けてもらう。見事達成すれば、お前たちは晴れてBランク冒険者だ」
白髭のギルドマスターが厳格な顔つきで告げる。
Bランクといえば、王都でも一握りの精鋭のみに許された称号だ。地方の街なら領主に匹敵する権力と信頼を得ることになる。
「昇格試験のターゲットは、王都の北東にある『轟鳴の谷』の最奥に巣食う主。凶悪な魔力を撒き散らす特異個体、ストーム・キマイラだ。強力な魔獣がひしめく谷を突破し、主を討ち果たしてこい」
「ガハハ! ついにBランクか! 俺たちも出世したものだな!」
ガルドが豪快に笑って依頼書を手に取る。
リアナとセレスティアも「当然の評価ね」「私たちの実力なら余裕だよ!」と自信満々に頷いた。
しかし、ハヤトの関心はすでに昇格そのものよりも、自身の左腕に装着された真っ黒なキャパシタシールドの実践投入に向いていた。
数日後。
轟鳴の谷へと足を踏み入れた一行は、さっそく谷を徘徊する魔物の群れと交戦状態に入っていた。
空からはワイバーンの雷撃が降り注ぎ、地上からは巨大な魔狼が炎の息を吐き出してくる。
「焼き尽くしなさい! 炎の嵐!」
セレスティアが杖を振り上げ、極大の炎の魔法を放つ。
敵と味方の強大な魔法が空中で激突し、谷の空間全体がビリビリと震えるほどの余波が生じた。
通常であれば、こうした魔法の衝突は空間に強烈な魔力の乱れを生み出し、近くにいる冒険者たちの肌を刺すような静電気や、頭痛を引き起こす原因となる。
だが、ハヤトは最前線に立ちながら、その不快感を一切感じていなかった。
視界の端に浮かび上がる青いウィンドウの中で、教授が静かに解説を始める。
『見事じゃ、マスター。魔力が空間で激突し、術式が崩壊する際に発生する無秩序な余剰エネルギー。いわば魔力ノイズじゃな。今まではお前たちの肌を焼き、邪魔をしていたそのノイズが……すべて、お前の盾に吸い込まれておる』
ハヤトの構えるキャパシタシールドは、巨大な誘電体を中心に構成されている。
空間を漂う行き場のない魔力ノイズは、最も電気を蓄えやすい性質を持つその盾へと、まるで掃除機に吸い込まれるかのように自然と集束し、盾の内部に純粋な電力として蓄積されていくのだ。
「凄い……。敵の魔法の余波も、セレスティア様の魔法のノイズも、全部この盾の容量に変換できる」
ハヤトは自身の筋肉に電気刺激を送り込み、強制収縮させた足腰でどっしりと地面に根を張った。
超回復で鍛え上げられた分厚い筋肉が、重い大盾の重量を完璧に支え切っている。
「ハヤト! 上から雷が来るぞ! 斜めに逸らせ!」
ガルドの指示が飛ぶ。ワイバーンの放った直撃コースの雷撃。
本来であれば、盾を傾けて威力を受け流すのがタンクの基本だ。
しかし、ハヤトは盾を逸らすどころか、自ら一歩前へと踏み出し、雷撃を大盾のど真ん中で正面から受け止めた。
ドガァァァァンッ!!
「なっ……お前、馬鹿野郎! まともに受けたら……」
ガルドが叫ぶが、土煙の中から現れたハヤトは、微動だにせず立ちすくんでいた。
それどころか、キャパシタシールドの表面には青白いスパークが走り、強大な雷撃のエネルギーをすべて盾の内部へと「充電」してしまったのだ。
「問題ありませんよ、ガルドさん。避ける必要なんてない」
ハヤトは盾越しにワイバーンを睨みつけながら、ニヤリと笑った。
「このキャパシタの容量なら、どれだけ魔法を浴びても余裕で吸収できる。むしろ、ノイズと攻撃を正面から受け止めてチャージした方が、谷の奥にいるボスに最大出力を叩き込むための効率がいいんです。これが最も合理的な手順ですよ」
「効率だァ? お前、自分の体の負担を考えて……」
「大丈夫です。筋肉の超回復も間に合ってますから」
ハヤトは忠告を遮り、盾に溜まったエネルギーを自身のガントレットへ引き出すと、強烈な電撃の鎖を放って空中のワイバーンを一撃で撃ち落とした。
圧倒的な防御力と、ノイズを力に変える無限のスタミナ。
完璧なシステムを手に入れたハヤトの心に、これまでになかった「慢心」という名の致命的なバグが静かに芽生え始めていた。




