強制収縮と、超回復の肉体改造
ガルドとの苛烈な特訓が始まって二日目。
ハヤトは訓練場の地面に大の字に倒れ込み、荒い息を吐いていた。
「はぁっ……はぁっ……。だ、駄目だ。物理的に重すぎる……!」
彼の左腕に装着された『蓄電大盾』は、古代のコンデンサを組み込んでいるため、常軌を逸した重量がある。初日こそ、静電気を帯びさせた銅線で装甲を引っ張る「外部アシスト」で無理やり動かそうとしていたが、その試みはあっさりと破綻した。
盾の重さとガルドの踏み込みの衝撃に耐えきれず、補助の銅線がプツンと切れてしまったのだ。
「配線で外側から引っ張るなんて、根本的に無理があったんだ……。俺自身の『土台(肉体)』がひ弱なままじゃ、この盾のポテンシャルは絶対に引き出せない」
ハヤトが悔しそうに拳を握りしめた時、視界の端で『教授』が静かに黒板を叩いた。
『その通りじゃマスター。いかに優れた装甲を着ようと、中身のエンジンが貧弱では話にならん。……だが、筋肉の出力を手っ取り早く上げる方法なら、お前はすでに持っておるではないか』
(筋肉の出力を上げる……? まさか、電気で直接……?)
ハヤトの脳裏に、生物学と電気工学が交差する一つの仮説が閃いた。
人間の筋肉は、脳からの「電気信号」によって収縮する。
しかし通常、脳は筋肉や腱が断裂するのを防ぐため、無意識にリミッターをかけ、本来の筋力の30%〜40%程度しか出せないように制限している。火事場の馬鹿力と呼ばれる現象は、このリミッターが外れた状態だ。
(なら、脳の信号を無視して、俺の体内の静電気を『直接』筋肉に流し込めば……!)
ハヤトは立ち上がり、大盾を構え直した。そして、静電気の流れるルートを装甲の配線ではなく、自分自身の左腕と下半身の「筋肉」へと直接繋ぎ変えた。
「ガルドさん! もう一回お願いします!」
「おう! 何度でもぶっ飛ばしてやるぜ!」
ガルドが大盾を構え、猛然と突進してくる。
激突の瞬間、ハヤトは自身の筋肉へ向けて、強烈な電気信号を叩き込んだ。
「電気刺激(EMS)……最大出力ッ!」
ビリィッ!
ハヤトの左腕と両足の筋肉が、強制的に100%の力で「全収縮」を引き起こした。
筋肉の繊維が限界まで張り詰め、爆発的な膂力を生み出す。
ガァァァァァンッ!!!
「なっ……!?」
ガルドが驚愕の声を上げた。
今まで一方的に押し込まれていたハヤトが、巨大な蓄電大盾を微動だにさせず、ガルドの突進を完全にその場で受け止めたのだ。
「おおっ!? すげえじゃないかハヤト! いきなり力が……」
「ぐあぁぁぁぁぁッ!!?」
ガルドが褒めようとした矢先、ハヤトは突如として悲鳴を上げ、大盾を取り落として地面にうずくまった。
「お、おい!? どうした!」
「い、痛ぇ……! 腕と足の筋肉が、千切れる……ッ!」
ハヤトの全身を、経験したことのない激痛が襲っていた。
無理もない。脳のリミッターを強制的に解除し、電気で限界以上の力を引き出した代償として、彼の細い筋繊維が耐えきれずに悲鳴を上げ、ズタズタに引き裂かれてしまったのだ。重度の肉離れに近い状態である。
『当然の反動じゃ。だがマスターよ、筋肉という組織は、破壊されることでより強く生まれ変わる。いわゆる“超回復”じゃな。この電気による強制破壊と回復を繰り返せば……』
(痛いけど……効率は、最高ってことだな……!)
ハヤトは脂汗を流しながら、ニヤリと笑った。
第42話 最強の土台と、逆転のシールドバッシュ
それからの三日間、ハヤトの特訓は狂気を帯びていた。
ガルドの攻撃を受けるたびに、電気刺激で筋肉を強制収縮させて防ぐ。直後に筋繊維が破壊され、激痛にのたうち回る。そして、宿屋に戻って大量の肉を食らい、泥のように眠って超回復を促す。
その異常なサイクルを繰り返すうちに、ハヤトの身体には劇的な変化が現れ始めていた。
「……ねえ。ハヤトのやつ、なんか大きくない?」
訓練場のベンチから見学を続けていたリアナが、目を丸くして呟いた。
隣に座るセレスティアとミナも、呆然として頷く。
「ええ……。冒険者服の肩のあたりがパツパツになってるわ。腕の太さなんて、この数日で一回り以上太くなってるんじゃないかしら」
「ハヤト君、すごく痛そうに倒れては、また立ち上がって……。私、回復魔法をかけてあげた方が……」
「駄目よミナ! あいつが自分から助けを求めてくるまでは手を出さないって決めたでしょ!」
ミナが心配そうに立ち上がりかけるのを、リアナが慌てて引き留める。
乙女たちのボイコットが続く中、ハヤトはただひたすらに、己の肉体という土台を『物理的』に作り替え続けていた。
◇
そして、特訓最終日となる五日目。
訓練場に向かい合って立つ二人の姿は、初日とは全く違う空気を纏っていた。
ハヤトの身体は、以前のひょろりとした少年兵のようなシルエットからは想像もつかないほど、分厚く、逞しい筋肉の鎧へと変貌を遂げていた。重大な負荷と超回復の反復が、彼を真のタンクとしての体格へと押し上げていたのだ。
「……まさか、たった五日でここまで仕上がるとはな。お前のその執念には恐れ入るぜ」
「おかげさまで、この蓄電大盾が随分と軽く感じるようになりましたよ」
ハヤトは黒い大盾を、まるで羽のように軽々と左腕で構えてみせた。
「いくぞ、ハヤト。これが最後の模擬戦だ。俺の全力のシールドバッシュ、受け止めてみろ!」
「来いッ、ガルドさん!」
ガルドが咆哮を上げ、大地を砕くような勢いで突進してくる。
初日とは比べ物にならない、本物の殺気すら混じった必殺の一撃。
激突のコンマ一秒前。
ハヤトは分厚く成長した自身の両足と左腕の筋肉に、再び電撃を走らせた。
(電気刺激(EMS)……フル・オーバーライド!)
バチィィッ!!
すでに常人離れしたレベルまで肥大化した筋肉が、電気の命令によってさらに100%の限界収縮を果たす。
ハヤトは盾を構えて防御するのではなく、自らも前傾姿勢となり、ガルドの突進に向かって渾身の力で盾を押し出した。
ドガァァァァァァァァァァンッ!!!
訓練場の中央で、爆弾が弾けたような衝撃音と土煙が巻き上がった。
ベンチにいた少女たちが思わず耳を塞ぎ、目を閉じる。
やがて土煙が晴れた後、そこに立っていたのは――。
「……嘘、でしょ」
セレスティアが震える声で呟いた。
訓練場の地面に背中から倒れ込み、呆然と空を見上げていたのは、最強の戦士であるはずのガルドだった。
そしてそのガルドを見下ろすように、黒い蓄電大盾を構えたハヤトが、揺るぎない巨木のように仁王立ちしていたのだ。
純粋な筋力と質量のぶつかり合い。
ハヤトの超回復した筋肉と、電気信号による強制出力の掛け合わせが、ついにガルドの筋力をわずかに上回り、力負けさせて弾き飛ばしたのである。
「はぁっ、はぁっ……。俺の、勝ちですね。ガルドさん」
ハヤトが息を切らしながら大盾を下ろすと、ガルドは数秒の沈黙の後、腹の底から愉快そうに大笑いし始めた。
「ガハハハハッ! 完敗だ! まさか力比べで俺が押し負ける日が来るとはな!」
ガルドは身を起こし、ハヤトの差し出した分厚い手を取って立ち上がった。
彼はハヤトの肩を誇らしげに叩く。
「合格だ、ハヤト。お前はもう、ただの理屈っぽい魔法使いじゃねえ。……立派な、一番前に立つべき『盾役』だ」
「ありがとうございます。全部、ガルドさんが基礎から叩き込んでくれたおかげです」
ハヤトが充実した笑顔を見せる。
己の肉体を鍛え上げ、古代のシステム(蓄電器)を完璧に制御する筋力を手に入れたハヤト。彼が名実ともにアタッカー兼タンクとしての絶対的な力を手に入れた瞬間を、三人の少女たちはただ無言で、複雑な感情を抱きながら見つめ続けることしかできなかった。
ギルドのクエストでタンク実践編を書いてください。
コンデンサシールドは、ハヤトが感知した敵味方の魔法のノイズを蓄積する。
10話構成でコンデンサシールドの最大出力でボスを倒すまでの話しで、ハヤトの成長と慢心で少し無茶な事をするようになる。
ここまでの功績でBランクに昇格する。
11話でBランクになったお祝い会
12話で街に戻ってきたはやと達の前に魔王の部下の悪魔が絶望的な力を持ってやってくる。Aクラスの冒険者と同レベルの強さで、街にはBランクの冒険者しかいない。
ここでガルドはハヤトを庇って守り、死ぬことになる。
ガルドの盾とキャパシタシールドを重ねてレールガンを即席で作って、悪魔に勝つ。
第43話 魔力ノイズのフィルターと、傲慢な防壁
王都の冒険者ギルド。
その奥にあるギルドマスターの執務室で、ハヤトたちエレキ・ストライドの面々は、一枚の羊皮紙をテーブルに突きつけられていた。
「お前たちに、ギルド公式の昇格試験を受けてもらう。見事達成すれば、お前たちは晴れてBランク冒険者だ」
白髭のギルドマスターが厳格な顔つきで告げる。
Bランクといえば、王都でも一握りの精鋭のみに許された称号だ。地方の街なら領主に匹敵する権力と信頼を得ることになる。
「昇格試験のターゲットは、王都の北東にある『轟鳴の谷』の最奥に巣食う主。凶悪な魔力を撒き散らす特異個体、ストーム・キマイラだ。強力な魔獣がひしめく谷を突破し、主を討ち果たしてこい」
「ガハハ! ついにBランクか! 俺たちも出世したものだな!」
ガルドが豪快に笑って依頼書を手に取る。
リアナとセレスティアも「当然の評価ね」「私たちの実力なら余裕だよ!」と自信満々に頷いた。
しかし、ハヤトの関心はすでに昇格そのものよりも、自身の左腕に装着された真っ黒なキャパシタシールドの実践投入に向いていた。
数日後。
轟鳴の谷へと足を踏み入れた一行は、さっそく谷を徘徊する魔物の群れと交戦状態に入っていた。
空からはワイバーンの雷撃が降り注ぎ、地上からは巨大な魔狼が炎の息を吐き出してくる。
「焼き尽くしなさい! 炎の嵐!」
セレスティアが杖を振り上げ、極大の炎の魔法を放つ。
敵と味方の強大な魔法が空中で激突し、谷の空間全体がビリビリと震えるほどの余波が生じた。
通常であれば、こうした魔法の衝突は空間に強烈な魔力の乱れを生み出し、近くにいる冒険者たちの肌を刺すような静電気や、頭痛を引き起こす原因となる。
だが、ハヤトは最前線に立ちながら、その不快感を一切感じていなかった。
視界の端に浮かび上がる青いウィンドウの中で、教授が静かに解説を始める。
『見事じゃ、マスター。魔力が空間で激突し、術式が崩壊する際に発生する無秩序な余剰エネルギー。いわば魔力ノイズじゃな。今まではお前たちの肌を焼き、邪魔をしていたそのノイズが……すべて、お前の盾に吸い込まれておる』
ハヤトの構えるキャパシタシールドは、巨大な誘電体を中心に構成されている。
空間を漂う行き場のない魔力ノイズは、最も電気を蓄えやすい性質を持つその盾へと、まるで掃除機に吸い込まれるかのように自然と集束し、盾の内部に純粋な電力として蓄積されていくのだ。
「凄い……。敵の魔法の余波も、セレスティア様の魔法のノイズも、全部この盾の容量に変換できる」
ハヤトは自身の筋肉に電気刺激を送り込み、強制収縮させた足腰でどっしりと地面に根を張った。
超回復で鍛え上げられた分厚い筋肉が、重い大盾の重量を完璧に支え切っている。
「ハヤト! 上から雷が来るぞ! 斜めに逸らせ!」
ガルドの指示が飛ぶ。ワイバーンの放った直撃コースの雷撃。
本来であれば、盾を傾けて威力を受け流すのがタンクの基本だ。
しかし、ハヤトは盾を逸らすどころか、自ら一歩前へと踏み出し、雷撃を大盾のど真ん中で正面から受け止めた。
ドガァァァァンッ!!
「なっ……お前、馬鹿野郎! まともに受けたら……」
ガルドが叫ぶが、土煙の中から現れたハヤトは、微動だにせず立ちすくんでいた。
それどころか、キャパシタシールドの表面には青白いスパークが走り、強大な雷撃のエネルギーをすべて盾の内部へと「充電」してしまったのだ。
「問題ありませんよ、ガルドさん。避ける必要なんてない」
ハヤトは盾越しにワイバーンを睨みつけながら、ニヤリと笑った。
「このキャパシタの容量なら、どれだけ魔法を浴びても余裕で吸収できる。むしろ、ノイズと攻撃を正面から受け止めてチャージした方が、谷の奥にいるボスに最大出力を叩き込むための効率がいいんです。これが最も合理的な手順ですよ」
「効率だァ? お前、自分の体の負担を考えて……」
「大丈夫です。筋肉の超回復も間に合ってますから」
ハヤトは忠告を遮り、盾に溜まったエネルギーを自身のガントレットへ引き出すと、強烈な電撃の鎖を放って空中のワイバーンを一撃で撃ち落とした。
圧倒的な防御力と、ノイズを力に変える無限のスタミナ。
完璧なシステムを手に入れたハヤトの心に、これまでになかった「慢心」という名の致命的なバグが静かに芽生え始めていた。
第44話 無視された連携と、乙女たちの不満
轟鳴の谷の中腹。
魔物の群れを次々と蹴散らしていくエレキ・ストライドの進軍速度は、かつてないほど速かった。
その中心にいるのは、紛れもなくハヤトだった。
彼は常にパーティの先頭を歩き、敵の攻撃を一切避けることなく、すべてキャパシタシールドで受け止めては吸収していく。
「ハヤト、右から魔狼の群れが来るわよ!」
「俺が止めます。リアナさんとセレスティア様は、俺の背後から適当に最大火力を撃ち続けてください。魔法のノイズは全部俺の盾で吸収してチャージに回すので、暴発の心配はいりませんよ」
ハヤトは後ろを振り向くことすらなく、淡々と指示を出した。
その言葉通り、彼が前に立っている限り、魔法の暴発リスクはゼロになる。後衛はただ安全圏から魔法を連パなしていればいいだけの、完全な作業と化していた。
だが、その後ろ姿を見つめる三人の少女たちの顔には、明確な苛立ちが浮かんでいた。
「……なーにが『適当に撃ち続けてください』よ。私たちをただの固定砲台かなんかだと思ってるわけ?」
リアナが短剣をくるくると弄びながら、不満げに舌打ちをした。
「そうね。前までは私たちが魔法を撃つタイミングを細かく合わせて、被害が出ないようにカバーし合っていたのに。今はただ、あいつの真っ黒な盾の後ろに立っているだけじゃない」
セレスティアも杖を構えたまま、面白くなさそうにハヤトの広い背中を睨みつける。
何よりも彼女たちを苛立たせているのは、ハヤトが戦闘中に一度も「自分たちを頼らなくなった」ことだ。
かつてのハヤトは、常に周囲の状況を確認し、限界ギリギリのところでミナにアースを頼み、リアナやセレスティアと連携して回路を構築していた。そこには泥臭いが確かな「繋がり」があった。
しかし今のハヤトは、筋肉を強制収縮させて無表情のまま敵の攻撃を受け止め、淡々と盾のメーター(蓄電量)を確認するばかりだ。
「ハヤト君……さっきから、攻撃をわざと受けてる気がします……」
ミナが心配そうにガルドの袖を引いた。
「ああ、お前の言う通りだ。あいつはボスのために盾の容量をマックスにしたいからって、本来なら避けるべきかすり傷まで全部自分から当たりにいってやがる」
ガルドは渋い顔でハヤトの背中を見つめた。
盾役の基本である「いなし」や「受け流し」を完全に放棄し、ただ絶対の容量に物を言わせて真正面から受け止めるだけの力任せの戦法。
それは、自らの肉体へのダメージの蓄積を軽視した、極めて危険な兆候だった。
「おいハヤト! いい加減にしろ! 盾の限界が来なくたって、お前の足腰の筋肉が悲鳴を上げ始めてるぞ! 少しは攻撃を逸らせ!」
「ガルドさん、心配しすぎです。筋肉のダメージは電気信号で痛覚を麻痺させて強制的に動かしてるので、戦闘行動に支障はありません。システムは正常に稼働しています」
ハヤトは振り返らずに、巨大な魔獣の突進を盾で受け止めながら答えた。
痛覚の麻痺。それはつまり、自分の体が壊れていくサインを自ら無視しているということだ。
「ちっ……頭でっかちの理屈野郎が。力がついた途端にこれかよ」
ガルドが忌々しそうに舌打ちをする。
谷の奥深くから、ついに目標であるボス、ストーム・キマイラの地鳴りのような咆哮が響き渡ってきた。
盾の容量はすでに90%近くまで溜まっている。
だが、パーティの連携という見えない回路は、ハヤトの傲慢さによって完全に破綻していた。




