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並列回路(パラレル)と、密着する導体

冗長設計によって古代の防衛システムを突破した一行は、さらに遺跡の深部へと進んでいた。

やがて彼らの行く手を阻んだのは、通路を完全に塞ぐ、見上げるほど巨大な銀色の隔壁だった。




「鍵穴も取っ手もないわね。どうやって開けるの、これ」




「物理的なロックが内側からかかっているみたいです。……よし、扉の内部の金属ラッチ(かんぬき)に強烈な電流を流し込んで、直接ジュール熱で焼き切って溶かしましょう」




ハヤトが扉の隙間に二本の銅線を差し込み、ガントレットに接続する。




「ミナさん、かなりの大電流を流します。接地アースをお願いできますか」




「はいっ、任せてください!」




ミナがいつものようにハヤトの背中に回り込み、ギュッと抱きついて大地の術式を展開する。靴底の特注スパイクが、銀色の床の継ぎ目に深く突き立てられた。

ハヤトは深く息を吸い込み、体内の静電気をかつてないレベルまで引き上げて放出した。




バチバチバチィィッ!!




強烈な電流が扉に流れ込む。だが、扉の質量が大きすぎるためか、なかなか内部のラッチが溶け落ちない。

さらに出力を上げようとした、その時だった。




「くぅっ……ぁ……!」




背中に密着しているミナから、苦しげな吐息が漏れた。




「ミナさん!? 熱いですか!?」




「だ、大丈夫です……! でも、少しだけ、足の裏が……っ」




ハヤトは慌てて出力を絞った。

ミナの靴のスパイクは優秀だが、今回流そうとしている電流の絶対量が多すぎるのだ。一本のアース(逃げ道)だけに電流を集中させれば、当然そこで巨大な摩擦(熱)が発生し、ミナ自身が火傷を負ってしまう。




『無理はいかんぞマスター。電流の逃げ道が一本(直列)しかないゆえに、熱の負荷が集中しておるのじゃ。全体の抵抗を下げ、安全に大電流を流すには……』




「分かってる! 『並列回路』にして、アースの数を増やさなきゃいけないんだ!」




ハヤトは焦った声で叫んだ。

複数の逃げ道(抵抗)を並列に繋げば、電気の通り道が広がり、全体の抵抗値は劇的に下がる。






「でも、さっきの戦闘で予備の太い銅線は使い切っちまった! 俺と地面を繋ぐ、物理的な別の『導体』がなければ……!」




ハヤトが唇を噛んだ、その直後。




「なんだ、要するにアースの『数』を増やして、負担を散らせばいいんだろ?」




ポン、と。

ハヤトの正面から、リアナが勢いよく飛び込んできた。

彼女はそのままハヤトの首に腕を回し、正面から思いきり身体を密着させてきたのだ。




「わっ!? リ、リアナさん!?」




「動かない! 私たち人間の体も、水分を含んだ立派な『導体』なんでしょ! 私がハヤトに抱きついて地面に足をつければ、もう一本の逃げ道になるはずじゃない!」




リアナの言う通り、理屈としては完璧だ。

しかし、密着した彼女の柔らかな膨らみが、ハヤトの胸元にムニュッと強く押し付けられている。革鎧越しであっても、その圧倒的な弾力と、彼女の身体から立ち昇る甘い汗の香りが、ハヤトの思考を激しくショートさせかけた。




「ちょ、いくらなんでも近すぎ……!」




「バカ、文句言わないの! ほら、セレスティアも! もう一本道を作れば、もっと安全になるんでしょ!」




「ええっ!? わ、私が!?」




急に話を振られたセレスティアが、顔を真っ赤にして後ずさった。

しかし、背中で必死に耐えているミナの姿と、一向に開かない隔壁を見て、彼女はギュッと目を瞑った。




「し、仕方ないわね……っ! ここで扉が開かなくて立ち往生するよりはマシよ! あ、あくまで緊急事態なんだから、勘違いしないでよね!」




ヤケクソ気味に叫ぶと、セレスティアもハヤトの横側に回り込み、その華奢な腕でハヤトの腰をギュッと抱きしめた。

右側からはセレスティアの豊かな胸の感触が押し付けられ、正面からはリアナの健康的な温もりが、そして背中からはミナの柔らかい感触がピッタリと張り付いている。




(な、なんだこの状況……っ!)




三人もの美少女に全方位から密着され、ハヤトの心臓は早鐘のように打ち鳴らされた。

顔のすぐ横にはセレスティアの銀髪があり、彼女の吐息が耳元をくすぐる。正面のリアナは「ハヤト、顔赤いよ?」と至近距離で悪戯っぽく笑っている。




『ほっほっほ! 心拍数の急上昇により、マスターの生体電圧が規格外の数値を叩き出しておるぞ! 若いというのは素晴らしいのう!』




(教授、黙っててくれ……ッ!)




ハヤトは必死に雑念を振り払い、目を閉じた。

恥ずかしさで爆発しそうになる頭を、無理やり物理の公式で冷やしていく。

背中ミナ正面リアナ右側面セレスティア

三本の『並列回路』が完全に構築され、ハヤトの身体をハブ(中心)とした巨大なアース網が完成した。




「……行きます、出力最大ッ!」




バチィィィィィンッ!!!




ハヤトの体から、先ほどとは比べ物にならないほどの大電流が放出された。

しかし、ミナから苦痛の声は上がらない。

ハヤトの身体を駆け巡る膨大なエネルギーの余剰分は、彼に密着する三人の少女たちの身体(抵抗)を均等に通り抜け、三方向に分散されて安全に大地へと吸収されていく。




「んんっ……!」




「あぁっ……なんだか、身体の奥がビリビリして……変な感じ……っ」




微弱な電流が通り抜ける刺激に、リアナとセレスティアが思わず艶っぽい声を漏らす。その声を聞くたびにハヤトの生体電圧がさらに跳ね上がり、扉に流し込まれるジュール熱が爆発的に増大していく。




ゴォォォォォォ……ッ!




ついに、圧倒的な熱量に耐えきれなくなった巨大隔壁の内部ラッチが完全にドロドロに融解した。

重々しい金属音と共に、遺跡の深部へと続く隔壁が、ゆっくりと左右に開き始める。




「あ、開いた……!」




ハヤトが電流を止めると同時に、三人の少女たちがパッと身体を離した。

セレスティアは耳まで真っ赤にしてそっぽを向き、リアナは少し照れくさそうに笑って服のシワを直している。ミナも、無事に役割を終えてほっと息をついていた。




「……お前ら、随分と楽しそうじゃねえか」




少し離れた場所で、腕を組んで一部始終を見ていたガルドが、ニヤニヤと笑いながらハヤトの肩をバンバンと叩いた。




「ち、違いますよ! これは純粋に物理的な並列回路を構築するための、やむを得ないアースの分散処置であって……!」




「はいはい、わかってるって。最高の『回路』だったぜ、ハヤト」




早口で弁解するハヤトの顔は、先ほどのジュール熱とは全く関係のない理由で、火が出るほど赤く染まっていた。

理系タンクの戦術には、時に物理法則の枠を超えた「予期せぬトラブル」がつきものである。

エレキ・ストライドの面々は、気まずさと微かな熱を帯びた空気のまま、開かれた隔壁の奥へと足を踏み入れていくのだった。

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