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杖という放熱板と、魔法のクールタイム



磁鳴谷じめいこく》への出発を明日に控えた夜。

冒険者ギルドの酒場で夕食をとっていたエレキ・ストライドの面々に、ふとガルドが疑問を投げかけた。




「なあハヤト。勇者パーティの奴らが、お前という『安全装置アース』を失って自滅した理屈は分かった。……でも、世の中の他の魔法使いは、お前がいなくても普通に魔法を使えてるよな? あいつらはどうやって、その『ノイズ(熱や静電気)』に対処してるんだ?」




「ああ、それですか」




ハヤトは手に持っていた串焼きを皿に置き、セレスティアの方を見た。




「セレスティア様。一般的な魔法使いが、大きな魔法を撃った直後にどうしているか……一番よく知っているのはあなたですよね?」




「え? ええ、もちろんよ」




突然話を振られたセレスティアは、少し考えてから答えた。




「大きな魔法を使えば、杖の先端が焼け焦げるほど熱くなるし、杖を持つ手もピリピリと痺れるわ。だから、次の魔法を撃つまでには必ずインターバルを置いて、杖を休ませるのが常識よ。無理をして連続で撃てば、杖が耐えきれずに砕け散ってしまうもの」




「その通りです」




ハヤトが指をパチンと鳴らす。




「ガルドさん。他の魔法使いがノイズに対処している一つ目の方法は、『ただ待つこと』です。空気中に熱が逃げ、静電気が自然に散るのを待つ。……この世界の魔法使いが言う『大きな魔法ほど、次の詠唱までに時間がかかる』という法則の正体は、魔力の回復待ちじゃない。杖と術者の体を冷ますための『放熱時間クールタイム』なんです」




「な……放熱時間?」




ガルドが目を丸くする。

魔法使いの最大の弱点である「詠唱の長さ」や「隙」が、単なる物理的な『冷却待ち』だという事実は、彼にとって衝撃だった。




「二つ目の方法は、『杖の性能』です」




ハヤトはテーブルの上に、自分のナイフを置いた。




「高位の魔法使いが持つ高価な魔導杖。あれは、魔力を高めるための神秘的な道具……というより、莫大な熱や静電気に耐えるための『巨大な放熱板』であり、電気を漏らさないための『頑丈な絶縁体』として作られているんです。だから高い魔法を撃つには、高価で頑丈な杖が必要になる」




ハヤトは視界の端に、金属の熱伝導と絶縁体の耐久性を示す図解を呼び出した。




「待機時間を作って自然に放熱するか、高価な杖を犠牲にして熱と電気を吸わせるか。一般的な魔法使いは、この二つの方法でどうにか自爆を避けているんです。

……でも、セレスティア様」




「な、なによ」




ハヤトに見つめられ、セレスティアは少し身構えた。




「勇者パーティの雷魔術師エリスは……俺がいた頃、極大魔法を撃った直後に、息つく暇もなく次の極大魔法を連発していませんでしたか? しかも、そこまで高価じゃない普通の杖で」




「あ……」




セレスティアの顔色が変わった。

言われてみれば、異常だったのだ。当時の勇者パーティの戦闘は、王都でも伝説のように語られていた。

『一切の隙を持たず、最高火力の魔法を雨霰と降らせる無敵の砲台』。それが彼らの評価だった。




「常識で考えれば、そんなことをすれば一発目の熱と静電気が抜けきらないうちに二発目の負荷が加わり、杖が絶縁破壊を起こして爆発します。術者も火傷と感電で即死するはずだ。……でも、彼らは平気だった」




「だって、それは……!」




セレスティアはゴクリと喉を鳴らし、ハヤトを見た。




「ハヤト、あなたが……エリスの隣に立って、彼女の杖や体に発生する熱と静電気を、発生した端からすべて強制的に吸い上げて、地面に捨てていたから……!」




ハヤトは静かに頷いた。




「俺の『静電気の適性』は、空間に漂う電荷を強制的に引き寄せる性質があります。俺が近くにいる限り、彼女たちの杖は熱も電気も溜まらない、常に冷え切った状態を保てていたんです」




「……背筋が寒くなってきたぜ」




ガルドが信じられないものを見るような目で、ハヤトを見つめた。




「つまりお前は、どんな大魔法でも、詠唱の合間(放熱時間)をゼロにして連発可能にする……『最強の冷却装置』だったってことかよ」




「まあ、俺自身は毎回ビリビリ痺れて、火傷だらけで痛かったですけどね。あいつらはそれを『俺の能力が低くて自滅して感電してるだけ』って笑ってましたけど」




ハヤトは苦笑いしながら肩をすくめた。

自分たちの才能だと信じて疑わなかった無詠唱の連発は、すべて「見下していた無能な少年が、自分の身を焦がしながら排熱を処理してくれていた」という物理的な恩恵に過ぎなかったのだ。




「エリスの魔法技術は確かに一流でした。でも、彼女は『出力』のことしか考えておらず、出た後のエネルギー(排熱と接地)の処理を完全に俺に依存していた。俺がいなくなった今、彼女が以前と同じ戦い方をすれば、間違いなく自分自身を焼き殺すことになります」




淡々と事実を述べるハヤトの言葉に、テーブルには静寂が落ちた。

魔法という神秘を、熱力学と電磁気学の『絶対法則』で解き明かし、誰よりも安全に、かつ狂気的な出力を可能にするシステム。




「……やっぱり、あなたと敵対する派閥の人間は馬鹿ね」




セレスティアがため息をつきながら、ハヤトにウインクをした。




「火力を出すだけの人間なら、代わりはいくらでもいるわ。でも、その火力の『限界の底上げ』と『絶対の安全性』を担保できるのは、世界であなただけよ。……さあ、明日は磁鳴谷ね。また私の炎を、最高の形で撃たせてちょうだい」




「ええ、任せてください。俺とミナさんの完璧な接地の前では、どんなオーバーヒートも無意味ですからね」




ハヤトとミナが顔を見合わせて笑い合う。

魔法使いの常識クールタイムを物理法則で完全に踏み倒す、最強の理系パーティ。彼らの挑戦は、いよいよ未踏の磁気領域へと足を踏み入れる。

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