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緊急クエストと、並列回路

王都の冒険者ギルドに、けたたましい警鐘が鳴り響いた。




「緊急事態! 王都の東門へ向かって、魔物の群れ(スタンピード)が接近中! 数はおよそ五十、強固な金属の皮膚を持つ《アーマード・ボア》の群れです!」




ギルドの受付嬢が悲痛な声を上げる。

ホールに居合わせた冒険者たちの間に、絶望的なざわめきが広がった。

《アーマード・ボア》は一匹でも厄介な突進力と防御力を持つ魔物だ。それが五十匹も群れをなして押し寄せてくれば、王都の門など容易く粉砕されてしまう。




「くそっ、高ランクのパーティは軒並み遠征中だぞ!」

「俺たちだけじゃ、あの鉄のイノシシの突進は止められない!」




誰もが及び腰になる中、ギルドの奥から顔面を蒼白にしたギルドマスターが飛び出してきた。




「誰か、門の防衛を引き受けてくれる者はいないか! このままでは市街地に被害が……!」

「……俺たちがやろう」




静まり返ったホールに、低く落ち着いた声が響いた。

大盾を背負ったガルドを先頭に、ハヤトたちエレキ・ストライドの四人が進み出る。




「ガルド……だが、君たちはまだランクFだろう。アルバーン家の護衛を成功させたとはいえ、相手は五十匹の《アーマード・ボア》だぞ。四人だけでどうやって……」




ギルドマスターがすがるような、しかし疑念の入り混じった目を向ける。

ハヤトは腰に巻いた特注の《カッパー・ワイヤー》をポンと叩き、自信に満ちた笑みを浮かべた。




「力押しで五十匹全部を焼き殺すなんて、俺の魔力じゃ到底無理です。……でも、相手が金属の鎧を着た『獣』なら、これ以上ないほど好都合ですよ。一瞬で追い払って見せます」











王都の東門前。

地鳴りのような足音と土煙を上げて、鋼鉄の皮膚を持つ巨大なイノシシの群れが猛スピードで迫っていた。




「ミナさん、例の靴の出番です!」

「はいっ!」




門の前に立ったハヤトの背中に、ミナがしっかりと抱きつく。

彼女は新しい《アース・ブーツ》の靴底に付いた鉄のスパイクを、体重をかけて地面の奥深くまで突き刺した。大地の水分と直接繋がる、完璧な接地の完了だ。




「ガルドさん、リアナさん! ワイヤーの固定を!」

「おう! 右側の城壁に打ち込んだぞ!」

「左側の木にも結びつけたよ!」




ハヤトの指示のもと、ガルドとリアナが門の前の空間に、横一直線に長い《カッパー・ワイヤー》を張り巡らせる。

それは、突進してくる魔物たちの鼻先ほどの高さに設置された、細く見えにくい「導線の罠」だった。




「群れが横に広がって突っ込んでくる……。よし、狙い通りだ」




ハヤトは右腕のガントレットにワイヤーの端を接続し、息を吸い込んだ。




『いくぞマスター。横に並んだ複数の標的が一本の導線に同時に触れる時、それは物理法則における“並列回路”を形成する!』




視界の端で、教授が高校物理の回路図を展開する。

直列回路とは違い、並列回路パラレル・サーキットでは枝分かれしたすべての標的に対して、電圧が分散することなく同じ強さでかかる。ワイヤーに触れたすべての魔物に対し、等しく強烈な「電位差」を与えることができるのだ。

そしてハヤトの狙いは、致死量の熱で焼き殺すことではない。




「ブギギギギィィッ!」




先頭を走っていた十数匹の《アーマード・ボア》が、張られた《カッパー・ワイヤー》に一斉に激突した。

金属の皮膚を持つ彼ら自身が、電気をよく通す「導体」となってワイヤーと接触する。




「閃けッ!! 《パラレル・ショック》!!」




ハヤトが体内の静電気を、一瞬だけ、極めて高い電圧に引き上げてワイヤーへと解き放った。

ミナの《アース・ブーツ》が余剰な負荷をすべて大地へと逃がしてくれるおかげで、ハヤトは一切の反動を受けることなく、高電圧のパルスを打ち込める。




バチチチチィィィンッ!!!




ワイヤーに触れた瞬間、金属装甲を通じてイノシシたちの全身に、鋭い痛みを伴う電撃が走った。

それと同時に、極端に高い電圧がかかったワイヤーの周囲の空気が絶縁破壊を起こす。




『空気の電離による発光現象……《コロナ・ディスチャージ》じゃ!』




パーンッ!! という空気を切り裂くような破裂音と共に、ワイヤーの全長にわたって、青白い稲妻のような強烈な閃光が弾け飛んだ。




「ギュイイイイィィッ!?」




鼻先に走った未知の激痛。そして、目を焼くような青白い閃光と、雷鳴のごとき轟音。

どれほど硬い装甲を持っていようと、彼らは野生の獣である。自然界において、強烈な光と音、そして理解できない痛みは「絶対的な恐怖」を意味していた。




パニックに陥った先頭集団のイノシシたちは、悲鳴を上げて急ブレーキをかけ、王都とは逆の方向へと無我夢中でUターンを始めた。

逃げ惑う先頭の群れが、後ろから突進してきていた後続の群れと激しく正面衝突する。




ドゴォッ、ガキィィンッ!




鋼鉄のイノシシ同士がぶつかり合い、群れ全体がドミノ倒しのように崩壊していく。

恐怖は一瞬にして群れ全体に伝染し、彼らは王都への侵攻を完全に諦め、巻き起こした土煙と共に森の奥深くへと逃げ去っていった。




「……回路の遮断、完了」




ハヤトが放電を止め、ワイヤーを外す。

倒したイノシシは一匹もいない。しかし、被害もゼロ。

並列回路によって電圧を落とさず全員に痛みを伝え、発光と破裂音で動物の「生存本能」を刺激する。Fランクの少ない魔力で最大の効果を生む、理にかなった防衛戦術だった。




「おいおい、嘘だろ……」




遅れて駆けつけてきたギルドマスターと他の冒険者たちは、城壁の上からその光景を見て、全員が言葉を失っていた。

五十匹の厄介な群れを、たった一本のワイヤーと、ほんの一瞬の閃光だけで退けてしまったのだ。




「たった四人で……しかも一匹も殺さずに、スタンピードを無傷で追い返しただと……?」




呆然と呟くギルドマスターの前に、ガルドが大盾を担いで歩み寄り、豪快に笑った。




「どうだマスター。力任せに暴れるだけが冒険者じゃねえ。俺たちエレキ・ストライドの防衛力は、本物だろ?」

「あ、ああ……! 素晴らしい、君たちの立ち回りは間違いなく一流だ! ランクFのままにしておくのはギルドの損失だ。すぐに昇格の手続きと、指名依頼クエストの準備をさせてもらう!」




ギルドマスターが興奮した面持ちでガルドとハヤトの手を力強く握る。

魔力の絶対量に頼らず、物理法則と回路の知識、そして魔物の習性までも計算に組み込んだ理系タンク。

この日、ハヤトたちエレキ・ストライドは、王都の冒険者ギルドにおいて確固たる『信頼と実績』を勝ち取ったのだった。

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