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接地抵抗と、大地への杭

王都の裏路地にある、馴染みのドワーフの武具工房。

以前、ハヤトの配線装甲を仕立てた筋骨隆々の親方は、

今回持ち込まれた「靴の設計図」を見て、感心したように顎髭を撫でていた。



「なるほど。靴の内側に銅の編み線を敷き詰め、分厚い革の靴底を貫通するように、数本の『鉄のスパイク』を打ち込む。……前回の鎧と同じで、電気の通り道を作るための特注品だな」



「はい。今回は俺の装備じゃなくて、パーティの治癒士であるミナさんのための靴です」




ハヤトの隣で、ミナが少し緊張した面持ちでぺこりと頭を下げる。

親方はミナの華奢な足元と、ハヤトが描いた厳密な仕様書を交互に見比べた。



「しかし坊主。ただ地面に電気を逃がすだけなら、わざわざ歩きにくい鉄のスパイクなんて打ち込まなくても、靴底全体を薄い金属板にしちまえばいいんじゃないか?」



「それだとダメなんです。電気を安全に逃がすためには、ただ地面に触れるだけじゃなく、大地の『奥深く』にしっかりと接続する必要がありますから」




ハヤトの視界の端で、教授が『接地抵抗アースのしにくさ』を示す数式を展開する。




「乾いた地面の表面は、砂や小石が多くて、意外と電気を通しにくい(抵抗率 ρ が高い)んです。もし薄い金属板をペタッと乗せただけだと、表面の砂が邪魔をして抵抗が生まれ、そこで巨大な熱が発生してしまう」



ハヤトは羊皮紙の図面を指差した。




「でも、鋭い鉄のスパイクなら、体重をかけるだけで乾いた表面の土を突き破り、地中にある『湿った土』に直接届きます。水分を含んだ土は立派な導体です。そこに杭を打ち込むことで初めて、完璧な電気の逃げアースが完成するんです」



「……なるほどな。表面の邪魔な抵抗を物理的にブチ抜いて、電気を通しやすい地中の水分と直接繋ぐってわけか」




親方は呆れたように笑い、分厚い手でバンッと机を叩いた。




「相変わらず、理屈の通った恐ろしい注文をしやがる。ただの魔法使いなら絶対に出てこない発想だ。……三日待て。嬢ちゃんの足にぴったり吸い付く、最高の『接地靴』を作ってやる」



「ありがとうございます、親方!」




ミナがパッと顔を輝かせた。




三日後。

王都郊外の荒れ地で、エレキ・ストライドの面々は新装備のテストを行っていた。

ミナの足元には、黒革で編み上げられた頑丈なブーツが輝いている。靴底には鋭く短い鉄のスパイクが均等に配置されており、彼女が土の上を歩くたびに、ザクッ、ザクッと小気味よい音を立てて地面を掴んでいた。



「ミナさん、履き心地はどうですか?」



「すごくいいです! スパイクが地面に刺さるから、踏ん張りも効いて滑りにくいし、なんだか足の裏が大地としっかり繋がっている気がします」




ミナがその場で軽く跳ねてみせる。

ガルドが大盾を構えながら、ニヤリと笑った。




「よぉし、装備の具合は完璧みたいだな。……それじゃハヤト、お前の『最大出力』のテストと行こうぜ。遠慮はいらねえ、ぶっ放してみろ」



「了解です。ミナさん、行きますよ」



「はいっ。いつでもどうぞ!」




ミナがハヤトの背中に回り込み、ギュッと抱きついて大地の術式を展開する。

同時に、彼女は両足にグッと体重をかけ、靴底の鉄のスパイクを荒れ地の湿った土の奥深くまで突き立てた。

ハヤトからミナの足裏、そしてスパイクを通じて地中深くまで繋がる、極太の一直線の『回路』が形成される。



「出力、最大……!」



ハヤトが右腕のガントレットに接続した鎖分銅を前方に投げ放ち、体内の生体バッテリーから、かつてないほどの大電流を絞り出した。

これまでは、自分の肉体が焼け焦げるのを恐れて無意識にセーブしていた、限界突破の出力。



バチバチバチィィィンッ!!!



鎖を伝って放たれた青白い雷光が、前方の巨大な岩を打ち据える。

凄まじいジュール熱が岩の内部の水分を瞬時に沸騰させ、水蒸気爆発を引き起こした。

ドガァァァン! という爆音と共に、馬車ほどもある巨大な岩が木端微塵に粉砕される。



「うおっ!? すげえ威力だ!」



「ちょっとハヤト君、やりすぎじゃない!?」



飛んでくる破片を大盾で弾きながら、ガルドとリアナが目を丸くする。

ハヤト自身も、その破壊力に息を呑んだ。

そして何より驚くべきは——。



「……ミナさん、足元は!?」




「熱くない……熱くないです、ハヤト君! 痛みが全然ありません!」




ミナが興奮した声で答えた。

これほどの超高出力を放てば、逃がしきれなかった余剰電流が摩擦を起こし、ミナの足の裏に酷い火傷を負わせていたはずだ。

しかし、鉄のスパイクが乾いた土を貫通し、電気を通しやすい地中の水分と完璧に接触(接地)しているおかげで、致死量のサージ電流はすべて、何の抵抗もなく広大な大地へと吸い込まれていったのである。



『完璧な接地アースじゃ。これでマスターは、自爆や味方への反動を一切恐れることなく、高出力の物理現象を連発できるようになったぞ!』



視界の端で、教授が拍手喝采を送っている。




「すごい……本当に、痛くない。私、ハヤト君の力を全部、大地に受け流せました!」




ミナが弾けるような笑顔で、ハヤトの背中から顔を覗かせる。

最弱の静電気使いの出力を支える、大地の治癒士。

理にかなった『安全装置』の最適化を完了させたことで、ハヤトはついに、他の高位魔術師たちすらも凌駕する「絶対的な安定感を持った砲台」としての機能をも手に入れたのだった。


(通電時の痛みはハヤト君との繋がりを感じられるので寂しい気もします。。。)



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