エネルギー変換のロスと、短絡(ショート)
旧魔力炉の遺跡から帰還した夜。
王都の酒場の一室で、エレキ・ストライドの四人とセレスティアは、テーブルを囲んで食事をとっていた。
「それにしてもハヤト。俺はずっと気になってたんだが……」
ガルドがエールを飲み干し、口を開いた。
「お前が勇者パーティを追い出された理由、『静電気しか使えない無能』って話だったよな。でも、お前がいなくなった後、あいつら急に魔法を失敗したり、自爆して火傷ばっかりするようになったって噂だぜ。どういうことだ?」
「ああ……それですか」
ハヤトは水筒を置き、少し真面目な顔になった。
「最近、俺もようやく分かってきたんです。自分の『静電気』が、彼らの魔法に対してどういう役割を果たしていたのか」
ハヤトは視界の端に、高校物理の「熱力学」の図表を呼び出した。
「セレスティア様。魔法使いは『魔力』という見えない力を、炎や氷といった『物理現象』に変えて攻撃しますよね」
「ええ。魔力を練り上げて世界に干渉し、現象を具現化するのよ」
「でも、物理の法則において『あるエネルギーを別のエネルギーに変換する時、効率が100%になることは絶対にない』んです。必ずどこかでロス(無駄)が発生します」
セレスティアとミナが、真剣な顔で耳を傾ける。
「魔力を無理やり物理世界に出力する時、空気中の分子と激しく衝突して『摩擦』が起きます。その結果、本来の炎や氷とは別に、余分な『熱』と、空気が帯電することによる『静電気』が発生してしまう。……これが、俺の言っていた『魔法のノイズ』の正体です」
「魔力から現象へ変換する時にこぼれ落ちる、余剰エネルギー……」
「そうです。勇者たちの魔法は威力がでかすぎたから、術者の周囲に発生する静電気の量も桁違いだった。俺の体は、その空間に漂う静電気を吸い寄せて地面に逃がす(アースする)性質があったんです。だから俺がいなくなった今、彼らは自分が生み出した余剰な静電気と熱をモロに食らって、火傷したり痺れたりしているんだと思います」
ガルドが「なるほどな」と深く頷いた。
「じゃあハヤト君」
ミナが首を傾げる。
「吸血植物と戦った時、ハヤト君は『システムをバグらせる』みたいなことを言ってたよね? あれは、どうやって相手の魔法を壊したの?」
ハヤトは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「あれは俺が格好つけて難しい言葉を使っただけで……やってることは、ただの『短絡』です」
「ショート?」
「魔法が発動して飛んでいく時、空気中には魔力が通るための『道』ができます。電気が通りやすいように、空気が電離(イオン化)している状態です」
ハヤトはテーブルの上に、ナイフを一本置いた。
「このナイフが、相手の魔法の通り道だとします。俺は、その道のすぐ横に、自分の鎖を使って『極端に電位差(電圧)が違う場所』を作るんです。するとどうなるか」
『水が高いところから低いところへ一気に流れるように、エネルギーはより抵抗の少ない場所へ雪崩れ込むのじゃ』
教授の言葉をなぞるように、ハヤトは説明を続ける。
「魔法のエネルギーが、本来の目標ではなく、俺が作った『電位の低い場所(鎖や地面)』に向かって無理やり引きずり込まれるんです。回路がショートして、魔法の力が途中で漏れ出してしまう。……相手の魔法の構造を書き換えているわけじゃなく、ただ『エネルギーの逃げ道』を物理的に作って、自壊させているだけです」
セレスティアは感嘆の溜息を漏らした。
「魔法そのものを電気だと言い張るわけじゃなく、魔法が起きる時の『物理的な隙(通り道)』を突いているのね……。なんて理にかなった戦い方」
「相手の魔法が強力であればあるほど、ショートさせた時のエネルギーの逆流も大きくなりますけどね。だから、ミナさんの『アース』がないと俺の体が真っ先に焼け焦げます」
ハヤトがミナを見ると、彼女は嬉しそうに「任せてください!」と胸を張った。
大きな胸がブルンッと揺れて強調され、ハヤトは頬を赤らめながら視線を逸らした。
魔法という神秘を、熱力学のエネルギー変換ロスと、電磁気学の電位差(電圧)という確固たる『物理の法則』で解き明かす。
ハヤトオリジナルの戦い方が不器用なりに形に成りつつあった。




