磁気閉じ込め(ローレンツ力)と、100%の熱量
「灰塵に帰しなさいッ! 《極大・炎熱爆破》!!」
セレスティアの杖の先端から、太陽の欠片のような巨大な炎の塊が放たれた。
高位の火術士が放つ、文字通り周囲の空間すべてを焼き尽くすための絶大な質量兵器。
本来であれば、その莫大なエネルギーの八割は「射線上にある空気を温めること」に浪費され、目標に到達する頃には熱の密度が大幅に下がってしまう。
しかし今回、その炎が突き進む先には、ハヤトが鎖分銅で編み上げた『らせん状の磁場トンネル(ソレノイドコイル)』が待ち構えていた。
「閉じ込めろ……ッ! 炎のベクトルを、一点に固定する!」
ハヤトが鎖に静電気を流し込み、強力な磁場を発生させる。
炎──すなわち電離した高熱のガス(プラズマ)が磁場のトンネルに突入した瞬間、常識を覆す物理現象が起きた。
『見事じゃマスター! 磁場の中を動く荷電粒子は“ローレンツ力”を受け、磁力線に巻き付くようにらせん運動を強いられる!』
教授の言う通りだった。
放射状に拡散しようとしていた炎のエネルギーが、見えない磁気の壁(ローレンツ力)によって強制的に押し込められる。
膨張しようとする熱エネルギーと、それを抑え込む磁場の圧力が衝突し、炎はトンネルの中心軸へ向かって極限まで圧縮されていく。
そしてトンネルを抜け出す瞬間。
巨大だった火球は、大気を切り裂くような甲高い音を伴った、一条の『超高密度プラズマ・レーザー』へと変貌していた。
「なっ……私の炎が、細い光の束に……!?」
セレスティアが驚愕に見開いた瞳の先で、圧縮された炎のレーザーが、突進してきていたゴーレムの頭部に直撃した。
『警告、高熱源体接近。反射膜の限界値ヲ……エラー、エラ、ピーーーーッ!』
ゴーレムの表面を覆っていた魔力反射膜は、何の役にも立たなかった。
広範囲の攻撃を弾くように設計された膜に対して、面積を極小まで絞り込んだ「針のような」熱線の直撃。
反射する間もなくコーティングが貫通され、逃げ場のない100%の熱量が、ゴーレムの分厚い鋼鉄装甲を内側から爆発的に加熱する。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
耳を劈く爆音と、太陽のような閃光が大広間を包み込んだ。
超高温のプラズマによって一瞬で沸点に達したゴーレムの装甲が、ドロドロに融解しながら吹き飛び、内部に隠されていた赤い魔力炉のコアが完全に蒸発する。
「ガルドさん、衝撃が来る!」
「おうよッ!」
爆発の余波で巻き起こった熱風を、ガルドが大盾で防ぎ、リアナが姿勢を低くして耐える。
同時に、強力な磁場を維持した代償としてハヤトに逆流してきた凄まじいサージ電流は、背中に密着したミナの『アース』によって、すべて遺跡の石床へと安全に逃がされていた。
「……やった、か」
土煙と蒸気が晴れた後。
広間の中央には、上半身の半分以上がドロドロに溶け落ち、完全に沈黙した巨大なゴーレムの残骸だけが転がっていた。
ルーベン派の騎士団を半壊させた無敵の守護者は、ハヤトとセレスティアのたった一撃の連携の前に、文字通り跡形もなく粉砕されたのだ。
「信じられない……。あれが、私の炎……?」
セレスティアが、杖を持った手を震わせながら呟いた。
彼女が消費した魔力は、いつもと変わらない。
しかし、ハヤトの『回路設計(磁気閉じ込め)』によってエネルギーの無駄(熱の拡散)を100%カットした結果、その破壊力は彼女自身の想像を遥かに超える次元へと引き上げられていた。
「言ったでしょ。あなたの魔力は桁違いだって」
ハヤトは鎖分銅から電流を切り、ガントレットのコネクタを外して振り返った。
特注の配線装甲から微かに熱の煙を上げながら、不敵に笑うハヤト。
「これが、無駄を削ぎ落とした『最適化』の力です。……最高の一撃でしたよ、セレスティア様」
その言葉に、セレスティアは一瞬呆然とし、やがて顔を真っ赤にしてツンとそっぽを向いた。
「と、当然よ! 私の才能と、あなたのその……小賢しい理屈が組み合わさったんだから、これくらいの結果が出なきゃ困るわ!」
「ははっ、違いねえ。だが、これで遺跡の最深部はアルバーン家のものだ。ルーベン派の連中の面は丸潰れだな」
ガルドが豪快に笑い、リアナが「お疲れさま!」とハヤトの背中をバンバン叩く。
ミナも緊張の糸が切れたように微笑み、ハヤトに水筒を差し出した。
『くくく。見事な回路の統合であったぞ、マスター。魔術と物理法則の融合……この世界の常識を根本から塗り替える準備は、いよいよ整ったようじゃな』
視界の端で、教授が『第2章クリア』のウィンドウを誇らしげに掲げている。
最弱の静電気しか持たず、生きた避雷針として使い捨てにされた少年。
彼が物理法則という『絶対ルール』を味方につけ、規格外の冒険者として名を轟かせるための本当の戦いは、ここから始まるのだ。




