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旧魔力炉の遺跡と、鋼鉄の守護者

王都から北東へ半日の距離にある『旧魔力炉の遺跡』。

古代の魔法文明が残したとされるその場所は、むき出しの赤茶けた鉄骨と、無機質な石造りの通路が入り組んだ巨大な迷宮だった。




「止まって。この先の床下、魔力回路の残骸がスパークしてます。踏むと感電するトラップだ」




「了解。壁沿いを進もう」




ハヤトの《荷電感知チャージ・センス》による索敵は、この金属と魔力が入り混じる遺跡において、まさに神がかった精度を発揮していた。

視界に広がる青いARの網が、隠された罠や、壁の裏に潜む機械仕掛けの魔物のノイズをすべて丸裸にしていく。




「……信じられないわね」




セレスティアが、ハヤトの背中を見つめながらポツリと漏らした。




「ルーベン派の斥候部隊は、この上層部だけで何人も罠の犠牲になったと聞いているわ。それを、まるで自分の庭を歩くように進んでいくなんて」




「ハヤト君の目は特別ですからね。それに、彼は罠の『構造』を理解して避けてくれるので、無駄な戦闘を極限まで減らせるんです」




ミナが誇らしげに胸を張る。

魔法の絶対量こそ正義だと教えられてきたセレスティアにとって、情報と解析でダンジョンを支配するハヤトの姿は、ひどく新鮮で、頼もしく映っていた。




「最深部への扉が見えたぞ。……だが、酷い有様だ」




先頭を進んでいたガルドが足を止めた。

巨大な鉄の扉の前には、ルーベン派の騎士たちのものと思われる無惨な残骸が散乱していた。

ひしゃげた金属鎧、へし折られた剣、そして黒焦げになった石の床。

血痕こそないが、彼らがここで『何か』に一方的な蹂躙を受け、逃げ帰ったことは明白だった。




「……ハヤト。扉の奥のノイズはどうなってる?」




ガルドが油断なく大盾を構えたまま尋ねる。

ハヤトは目を閉じ、意識を扉の向こう側へと集中させた。




「……バカデカい質量の塊が一つ。しかも、その表面が微弱な魔力を帯びて『コーティング』されてる。生半可な魔法じゃ、表面でツルンと滑らされて弾かれますよ」




『うむ。物理装甲の上に、電磁シールドのような魔力反射膜を展開しておるようじゃな。燃費の悪い炎など撃ち込めば、完全に乱反射して空気を温めるだけで終わるぞ』




視界の端で、教授が分析結果をウィンドウに表示する。

ハヤトはセレスティアを振り返った。




「セレスティア様。あなたの炎を100%直撃させるための『筒』を作ります。俺が合図するまで、絶対に魔法を撃たないでください」




「……ええ、分かったわ。私の火力は、あなたの合図のためだけに残しておく」




セレスティアが杖を握り直し、コクリと頷いた。

かつての彼女なら、「私の魔法が弾かれるはずがない」と突如詠唱を始めていただろう。だが今の彼女は、ハヤトの『回路設計システム』を完全に信頼し、自らをその一部として機能させる覚悟を決めていた。




「よし、行くぞ!」




ガルドが両腕で巨大な鉄の扉を押し開ける。

重々しい地響きと共に扉が開くと、円形の大広間の中央で、巨大な鉄の塊がゆっくりと動き始めた。

全長七メートルを超える、四つ足の『鋼鉄のゴーレム』。

その全身は分厚い装甲で覆われ、頭部にあたる部分には、不気味に赤く発光する魔力炉のコアが埋め込まれていた。




『侵入者ヲ確認。排除シークエンスニ移行』




機械的な低い駆動音が広間に響き渡る。

次の瞬間、ゴーレムの背中から無数の金属の杭が射出され、散弾のようにハヤトたちへと降り注いだ。




「ガァッ!」




ガルドが大盾を天に掲げ、パーティ全員を覆うように防御陣形をとる。

ガガガガガンッ!!

鼓膜を破るような金属音と共に、ガルドの巨体が後ろへと数メートルズルズルと押し込まれた。




「くそっ、なんて重さだ……! 並の盾使いじゃ、一撃で腕を粉砕されてるぞ!」




「ガルドの死角は私が守る!」




リアナが飛び出し、盾から漏れた杭を双刃で弾き落とす。

だが、ゴーレムは間髪入れずに四つ足で突進を開始し、圧倒的な質量でガルドたちを轢き潰そうと迫ってきた。




「ハヤト、急げ! 長くは保たん!」




「ミナさん!」




「はいっ!」




ハヤトの背中にミナが密着し、大地の術式アースを展開する。

ハヤトは右手のガントレットに接続された鎖分銅を振り回し、前方に迫るゴーレムと自分たちの間にある空間に向けて、猛然と投擲した。




「らせん状の軌道を描け……ッ!」




ただまっすぐに投げるのではない。

ハヤトは鎖の軌道をコントロールし、空中の石柱や広間の突起に連続して巻き付けながら、前方に巨大な『コイル状の導線』を物理的に編み上げていった。




『素晴らしいぞマスター! 導線をらせん状に巻いた“ソレノイドコイル”の完成じゃ!』




「そこに大電流を流し込んで、電磁石のトンネルを作る!」




ハヤトが体内の静電気を限界まで引き上げ、右腕の配線ハーネスを通じて鎖へと一気に叩き込んだ。

バチバチィィンッ!

らせん状に張られた鎖に強烈な電流が流れ込み、中心の空間に強力な『磁場』が発生する。




「セレスティア様、今だ! 俺の作った磁場のトンネルの中に、最大火力の炎を撃ち込め!」




ハヤトの絶叫に応え、高位貴族の少女が杖を真っ直ぐに突き出した。

魔法の絶対法則を塗り替える、必殺コンビネーションが火を吹く。

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