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磁気閉じ込めと、炎の最適化

ルーベン派の騎士たちが逃げるように修練場を去った後。

セレスティアは、控えていた自室の騎士たちに外で待機するように命じると、改めてハヤトたち『エレキ・ストライド』の面々に向き直った。




「……助太刀感謝する、セレスティア嬢。だが、ただ俺たちを庇うためだけに、わざわざこんなむさ苦しいギルドの裏手まで来たわけじゃないだろう?」




ガルドが大盾を下ろし、鋭い視線を向ける。

セレスティアは小さく頷き、凛とした声で答えた。




「ええ。アルバーン家として、あなたたち『エレキ・ストライド』に正式な依頼クエストを発注しに来たわ。……王都の北東にある『旧魔力炉の遺跡』の最深部への護衛と、そこを占拠しているガーディアンの討伐よ」




「旧魔力炉の遺跡……あそこは今、ルーベン派の騎士団が独占して発掘作業をしてるはずじゃなかったか?」




リアナが不思議そうに首を傾げる。

セレスティアは忌々しげに顔をしかめた。




「やつら、最深部の扉を開けた途端に、中にいた巨大な『鋼鉄のゴーレム』に部隊を半壊させられて逃げ帰ってきたのよ。物理攻撃も魔法も通じない、規格外の装甲を持っているらしいわ」




「なるほどな。ルーベン派が失敗した難関をアルバーン家がクリアすれば、貴族院での力関係が逆転するってわけだ」




ガルドの言葉に、セレスティアは「その通りよ」と頷いた。




「だけど、私個人の火力だけでは押し切れない可能性がある。……そこで、あなたたちよ」




セレスティアの視線が、真っ直ぐにハヤトを捉えた。




「ハヤト。あなたのあの『システムを書き換える戦い方』と、私の絶対的な『火力』。これを組み合わせれば、どんな強固な装甲だろうと必ず突破できる。……力を貸してちょうだい」




高位貴族の少女が、平民の少年に頭を下げる。

その真摯な態度に、ハヤトは少しだけ驚いた後、口元に笑みを浮かべた。




「俺たちをただの肉盾(避雷針)じゃなく、対等な戦力として計算してくれるなら、断る理由はないです。……それに」




ハヤトは視界の端に『電気回路入門』を呼び出しながら、セレスティアの持つ美しい杖を指差した。




「あなたの強大な炎の魔力。これを『最適化』して、効率100%で敵に叩き込むための“回路設計”のアイデアが、一つあるんです」




「私の魔法の、最適化……?」




セレスティアが目を丸くする。




「迷いの森で言いましたよね。あなたの炎は出力が高いのに、周囲の空気を温めることにエネルギーが漏れすぎている、と」




「え、ええ……。でも、炎は熱を持てば自然と拡散してしまうものよ。それは魔法の絶対的な法則だわ」




「魔法の法則ではそうかもしれない。でも、物理法則なら『拡散させずに閉じ込める』ことができる」




ハヤトの網膜上で、教授が面白そうに青い図解を展開する。




『ほう。プラズマの磁気閉じ込めじゃな。まさかこの世界で、核融合炉のような真似を企むとはのう』




教授の言う通り、炎の実態は電離した気体、すなわち『プラズマ(荷電粒子の集合体)』である。

そして荷電粒子は、磁場(ローレンツ力)の干渉を受ける。




「俺の鎖分銅を使って、ゴーレムまでの直線距離にらせん状の『電磁石コイル』を作ります。俺が大電流を流して強力な磁場トンネルを形成するから、あなたはそのトンネルの中を通すように、炎を撃ち込んでください」




「磁場……トンネル……? ごめんなさい、言っている意味が全く分からないのだけど」




「要するに、見えない『筒』を作るんです。その筒の中を通せば、炎の熱は周囲の空気に一切逃げず、100%の火力がゴーレムの装甲一点に直撃する」




魔法の拡散を防ぎ、ベクトルの向きを完全に固定する『磁気閉じ込め(マグネティック・コンファインメント)』。

ハヤトの提案は、魔法という大雑把なエネルギーの塊を、精密なレーザー兵器へと作り変える極めて理系的なアプローチだった。




「ハヤト君、それってまた凄い熱(ジュール熱)が出るんじゃ……」




心配そうに見つめるミナに対し、ハヤトは安心させるように頷いた。




「だから、ミナさんの『アース』が絶対に必要なんです。俺一人じゃ、磁場を維持する前に自爆する」




「……分かりました。私がハヤト君を、そしてセレスティア様を支えます」




ミナが力強く頷く。

ガルドが大盾を叩いて大きな音を鳴らした。




「方針は決まったな。ハヤトの『筒』で火力を一点に集中し、ゴーレムの装甲を撃ち抜く。俺とリアナで前線を維持し、筒を作る時間を稼ぐ。……セレスティア嬢、報酬は弾んでもらうぞ」




「ええ、もちろんよ! アルバーン家の名にかけて、破格の報酬を約束するわ」




セレスティアの顔に、自信に満ちた笑みが戻る。

傲慢だった炎の貴族と、最弱の静電気使いによる、規格外の合同任務ジョイント・ミッション

強固な装甲を誇るという旧魔力炉の遺跡に向けて、理系タンクと炎の砲台の最適化テストが幕を開けようとしていた。

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