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導線と接点抵抗

王都の裏路地に店を構える、ドワーフの武具工房。

むせ返るような熱気と、鉄を打つ規則的な重低音が響く中、ハヤトとガルドは工房の親方と向き合っていた。




「……なるほど。お前さんが最近ギルドで噂になってる『雷の小僧』かい。確かに、こりゃあ立派なガタイに育ちやがって。既製品の安い革鎧じゃ、すぐに肩が弾けちまうわけだ」




筋骨隆々のドワーフの親方が、ハヤトの胸板や腕の太さをメジャーで測りながら、ニヤリと笑った。




「親方、こいつの新しい防具を頼みたい。ただ頑丈なだけじゃなく、こいつの『戦い方』に合った特別なやつだ」




ガルドが腕を組みながら口を挟む。




「こいつは金属の鎖分銅を使って、特殊な雷の魔術を使う。だが、普通の金属鎧だと自分の魔力で感電しちまうし、かといって完全な絶縁体の革鎧だけだと、鎖に魔力を流し込む効率が悪くなるらしいんだ」




「ふむ。自分の魔力で自爆しないようにしつつ、武器にはしっかり力を伝えたい、と。……面倒な注文だが、やりがいはあるな」




親方が顎髭を撫でる。

その時、ハヤトの視界の端で、半透明の『電気回路入門』が開かれた。




『マスターよ。新しいハードウェア(防具)を設計するなら、お前自身の魔力を武器へと伝達するための“ハーネス(配線)設計”を厳密に行う必要があるぞ』




(ハーネス設計……)




ハヤトは、昨夜教授から教わった『オームの法則』と『ジュール熱』の理論を思い返していた。

対象を内部から焼き切るための熱量 Q は、電流 I 、抵抗 R 、時間 t を用いて以下の公式で表されるらしい。



Q = I^2 x R x t



電流を増やせば増やすほど、発生する熱は「二乗」のスケールで跳ね上がる。

敵の装甲を抵抗(R)と見立てて焼き切るのが目的だが、もしハヤト自身の「腕」や「鎖との接続部」に余計な抵抗が存在すれば、ハヤト自身の手元で莫大なジュール熱が発生し、大火傷を負ってしまう。




『特に危険なのが“接点”じゃ。お前の体から鎖へと電荷が移る手首のコネクタ部分。ここが密着しておらず抵抗値が高いと、放電火花(ESD)が発生し、エネルギーがロスするだけでなく関節が焼け焦げるぞ』




教授の的確な指摘に、ハヤトは深く頷き、親方に向き直った。




「親方。ベースは絶縁性の高い厚手の硬革ボイルどれざーでお願いします。でも、背中の中央から両腕の袖口にかけて、鎧の内側に『銅の編み線』を縫い込んでほしいんです」




「銅の編み線? 雷の魔力を通すための『通り道(導線)』を作るってことか?」




親方が目を丸くする。




「はい。俺の背中には、魔力の暴発を防ぐための『安全装置ミナ』が触れます。だから背中から腕の先まで、安全に電荷を逃がす、あるいは引き出すための太い血管のような配線ハーネスが必要です。……大電流に耐えられるよう、銅線の『線径』は可能な限り太くしてください」




ただの防具選びではない。

それは、ハヤト自身の肉体という生体回路を、外部の鎖分銅(武器)や大地ミナとシームレスに接続するための、高度なシステム設計だった。




「なるほどな……。線径を太くして、鎧の内側で電気の道を作る。だが坊主、それだと袖口から武器に力を移す時、どうやって繋ぐんだ?」




「そこが一番重要です。手首を覆うガントレットの手のひら部分に、鎖をガッチリと固定できる金属製の『留めコネクタ』を仕込んでください。隙間なく、完璧に密着するように」




「隙間があるとマズイのか?」




「はい。接触が甘いと、そこで見えない摩擦(接触抵抗)が起きて、俺の手首が焼き切れます。……絶対の接点を作りたいんです」




ハヤトのあまりにも理路整然とした要求(仕様)に、ドワーフの親方は一瞬呆気に取られ、やがて腹の底から愉快そうに笑い出した。




「ガハハハッ! こいつは傑作だ! 魔法使いってのは『気合いで炎を出せ!』みたいなフワッとした注文ばっかりしやがるが、お前さんの注文はまるで凄腕の『カラクリ技師』みたいだぜ!」




「あ、すみません。細かすぎましたか……?」




「いや、最高だ! 職人魂に火が点いたぜ。極太の銅線を仕込んだ絶縁装甲に、完璧な密着度を誇るコネクタ付きのガントレットだな。……三日待て。俺の持てる最高の技術で、お前専用の『回路(鎧)』を組み上げてやる!」




親方は興奮した様子で羊皮紙に設計図を書き殴り始めた。

ガルドが呆れたようにハヤトの肩を叩く。




「お前、本当に荷物持ちの出か? なんでそんな構造の理屈までスラスラ出てくるんだ」




「……生き残るために、必死で考えた結果ですよ」




ハヤトは笑って誤魔化しながら、視界の端で満足げに頷く教授を見つめた。




三日後。

ハヤトの元に届いたのは、黒に鈍く光る特注の革装甲だった。

内側には美しい銅の編み線が血脈のように這い、両手首のガントレットには、鎖分銅をシームレスに接続・固定できる強固な留めコネクタが備わっている。

一度鎖を接続すれば、ハヤトの生体電流はロスなく、そして抵抗なく鎖の先端まで一直線に到達する。




「よし……これで、いける」




新しい装甲に袖を通し、鎖を装甲のコネクタ部に接続した瞬間。

ハヤトは、自分の身体が武器の先まで完全に『拡張』された確かな一体感を得た。

『熱(ジュール熱)』の支配。

そのための完璧なハードウェアを身に纏い、新たな依頼へと足を踏み出すのだった。

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