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恐怖の硬直と、並列防壁《マルチ・エレキ・シフト》

巨大な(ツタ)の一撃が、ハヤトの放った静電気の斥力によって虚しく地面を抉る。

巻き上がった土煙の中で、セレスティアは呆然と目の前の背中を見上げていた。




「どうして……平民のあなたが、私を……」




「平民とか貴族とか、今はどうでもいいだろ! 立てますか!」




ハヤトが怒鳴るが、セレスティアの足は恐怖と魔力枯渇で完全にすくみ、動く気配がない。

『吸血蔦の群生核』は、獲物を逃したことに激怒したかのように、不気味な脈動を激しくした。

ズズズッ……!

地面が不自然に隆起し、四方八方から十本以上の極太の蔦が、槍のように先端を尖らせて鎌首をもたげる。




「チィッ、数が多いぞ! リアナ、嬢ちゃんを守れ!」




「了解!」




後れて駆けつけたガルドが大盾を構えてセレスティアの前に立ち塞がり、リアナが双刃を抜いて周囲を警戒する。

ミナも後方から、身体能力を向上させる支援の術式を三人に展開した。

だが、状況は最悪だった。




「ガアァァァッ!」




群生核が奇声のような音を立てると同時に、十本以上の蔦が一斉に降り注いだ。




「フンッ!」




ガルドが盾を斜めに構え、正面からの三本をまとめて受け流す。

リアナが跳躍し、側面から迫る二本を鮮やかに切り裂いた。

だが、敵の数は圧倒的だ。

防ぎきれなかった残りの蔦が、無防備なセレスティアと、彼女を庇うハヤトを頭上から串刺しにしようと迫る。




「いやぁぁっ!」




(くそっ、一本の鎖じゃ《エレキ・シフト》で逸らせるのはせいぜい二、三本が限界だ!)




ハヤトが顔を歪めたその時、視界の端で教授が青い光を強烈に瞬かせた。




『馬鹿者! 回路の基本を思い出せ! 一本の導線で容量が足りぬなら、どうする!?』




「……っ、線を分ける! 並列回路か!」




ハヤトは持っていた鎖分銅を、鞭のように周囲の木々へ向けて連続で振るった。

分銅の重りが太い木の幹に巻き付き、そこを支点にしてさらに別の木へと絡みつく。

数秒の間に、セレスティアとハヤトの頭上の空間に、鎖を使った蜘蛛の巣のような『物理的なライン』が張り巡らされた。




『その通りじゃ! 負荷を複数の経路に分散させる“分流”。これこそが並列回路の真骨頂! すべての鎖に同じ電位を流し込め!』




「おおおおおっ!!」




ハヤトは体中の静電気を限界まで引き上げ、張り巡らせた鎖の網に一気に叩き込んだ。

バチバチバチィッ!!

頭上の鎖網全体が、強烈なマイナス電荷を帯びて青白く発光する。

そこへ、落下してきた五本の蔦が同時に突っ込んだ。




「弾けろぉっ、《マルチ・エレキ・シフト》ッ!!」




ドガガガガガンッ!!



強烈なクーロンの反発力が空間全体に作用し、五本の蔦の軌道が、まるで見えないドームに弾かれたように全方位へとぐにゃりと曲げられた。

蔦はセレスティアの頭上を大きく逸れ、周囲の木々や岩に激突して粉々に砕け散る。




「……な、に……これ……」




セレスティアは、頭上に広がる青白い電光の網を見上げて、信じられないというように唇を震わせた。

彼女の常識では、魔法とは「強大な力で敵をねじ伏せる」ものだ。

しかし、目の前の平民の少年は、その微弱な魔力を「計算」と「構造」によって最適化し、圧倒的な質量の暴力を見事にいなしてみせたのだ。




「すげぇ! やりやがったな、ハヤト!」




「最高だよ、あんた!」




ガルドとリアナが歓声を上げる。

だが、ハヤトの顔に余裕はなかった。

額からは脂汗が吹き出し、息は荒い。




「ガルドさん、喜んでる場合じゃない……! 弾いても弾いても、あいつの蔦の再生速度が異常だ!」




ハヤトの言う通り、リアナに切り裂かれ、壁に激突して砕けた蔦の残骸から、瞬く間に新たな蔦が再生していく。

その異常な回復力と無限とも思える質量は、すべてセレスティアが最初に撃ち込んだ「極大の炎魔法」のエネルギーを吸収した結果だった。




「私の、せいだ……」




セレスティアが青ざめた顔で呟く。




「私が、あいつに魔力を与えすぎたから……もう、私の炎じゃ相殺しきれない……!」




絶望に染まる高位貴族の少女。

だが、ハヤトは鎖を握り直したまま、不敵な笑みを浮かべてみせた。




「相殺なんて、最初からする必要ない」




「……え?」




「相手は『魔力を吸収してシステムを稼働させている』んだろ? だったら、そのシステム自体に“致命的なエラー”を起こさせてやればいい」




ハヤトの瞳に冷徹な光が宿る。

視界の端では、教授が『EMC(電磁両立性)ハッキング』という不吉なタイトルのウィンドウを、楽しげに展開していた。

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