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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Ritual

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31/35

第12話:記録者の手記①(前篇)


 ――記録者:久保正蔵

 ――日付:不明

 ――記録媒体:紙/インク消失性高

 ――状態:判読困難


(以下、原文を一部転写)


> ……これが、私の最後の報告になるかもしれない。

> 斎藤主任が消えてから、もう何日が経ったのか分からない。

> 時計は、どれも十二秒で止まったままだ。

> 夜と昼の区別も、次第につかなくなっている。


久保は震える手で、紙を押さえた。

ペン先から滴るインクが、書いた傍から滲んでいく。


書くたびに、紙の繊維がざわつく。

耳の奥では、あの音が途切れず響いていた。


――ぴちゃん。


「音が近い。」


口に出した瞬間、反響が返ってくる。

誰もいないはずの部屋で、自分の声が“他人の声”のように返ってくる。


壁のガラスに反射する自分の姿が、少し遅れて笑った。


> ……私はいま、観察されている。

> 記録を書いている私を、誰かが見ている。

> もしかすると、それは私自身なのかもしれない。

> だが、どちらが“外”にいるのか、もう分からない。


照明がちらついた。

紙の上に、淡い波紋が広がる。


机に水をこぼした覚えはない。

それでもインクが滲み、文字が崩れていく。


「……まだ、見てるのか。」


目を上げた。

向かいの壁に立てかけられた鏡――いや、“あれ”はもう鏡ではない。


奥の方で、揺れる光。

青白い水面の下から、誰かの手がゆっくりと伸びてくる。


「主任……ですか。」


返事はない。

ただ、光の中で“彼の白衣”が揺れた。


次の瞬間、手元のノートが勝手にめくれる。

一枚、一枚、見えない風に押されて。


止まったのは、まだ白紙のページ。

そこに、黒い文字が浮かび上がる。


FROM INSIDE

WRITE FOR US


「……書け、っていうのか。」


久保はペンを握り直す。

手首が勝手に動いた。


意識していないのに、筆跡は自分のものだった。

だが、書かれていく言葉は知らない文だった。


> 「00:00:12。境界は薄れる。

> 外と内は、互いの視線で形を保つ。

> 記録は祈り。祈りは観察。」


ペン先が止まらない。

脳の奥で誰かが語りかけてくるように、言葉が溢れ続けた。


> 「見る者は見られる者となり、

> 記す者は記される者となる。

> 反射の向こうに立つ者は、

> すでにこの手記を読んでいる。」


「やめろっ!」


久保はペンを叩きつけた。

インクが飛び散り、床に黒い雫が散る。


それがゆっくりと形を成す。


丸い輪――水滴の跡。

そこから、小さな音がした。


――ぴちゃん。


震える手で紙を掴み、ページを閉じる。


だが、手記の裏側から光が滲み、逆光で新しい文字が浮かんだ。


> 「あなたの番だ。」


久保は立ち上がり、壁際の鏡を見た。

そこには、確かに“自分”がいた。


ただし、反射の“中”で。


「……俺が、“中”だったのか。」


反射の中の久保が、ゆっくりと口を開く。

同じ声が、同じ息で響く。


> 「――もう、交代の時間だ。」


――ぴちゃん。


光が弾け、部屋は真白に染まった。

机の上には開かれたノートだけが残り、最後の行にはこう記されていた。


RECORD COMPLETE

FROM INSIDE: KUBO


その夜、研究棟を封鎖した警備員が地下の明かりに気づいたという。

だが、確認に入ったとき、室内には誰もいなかった。


ただ、壁一面が“文字のような水跡”で覆われていたという。

――その形は、まるで無数の瞳が覗いているように見えた。

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