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REFLECTOR  作者: GenerativeWorks
Ritual

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23/28

第4話:夜の記録

午前二時。

研究室の灯りはすべて落とされ、久保だけが小型ランプを頼りに机へ向かっていた。


白紙の実験報告書。

その中央に、一行目を書く。


> 「第三夜観察記録。水音、持続。」


ペン先がわずかに震える。

インクが紙に吸い込まれる音まで聞こえるほど、静かな夜だった。


――ぴちゃん。


久保は顔を上げた。

今夜も、あの音。


耳の奥に、遠くから染み入るような水音が流れ込む。

廊下の奥、鏡のある実験室の方角からだった。


「……また、始まった。」


椅子を引く音が、やけに大きく響く。

カメラを掴み、静かに扉を開けた。


廊下の明かりは落とされている。

非常灯の薄い緑が、床に長い影を落としている。


久保の足音が、微かに反響した。


「主任が来る前に、記録を取っておこう……。」


独り言を呟きながら、ドアを押す。

実験室の空気は冷たかった。


鏡の前の台座に、誰かが立っているような錯覚――いや、立っていた。

自分自身、だった。


「……俺?」


鏡の中の“久保”が、少し遅れて首を傾げた。

目が合う。


ほんの一瞬のズレ。

反射じゃない。


明らかに、遅れて動いている。


「主任……主任、聞こえますか……?」


通信機のスイッチを入れるが、ノイズしか返ってこない。

代わりに――


――ぴちゃん。


水の音が、また響いた。

今度は耳元で。


「……誰だ。」


久保が後ずさる。

鏡の“自分”も後ずさる。


だが、足音の数が合わない。

二歩、三歩。


鏡の中からも、別の足音が混ざる。


恐る恐るカメラを向けた。

レンズ越しの鏡面に、黒い影が滲む。


自分と同じ位置に立っていた“影”が、カメラの光に反応して首を傾げた。

目が、ない。


顔の中央が黒い穴のように歪んでいる。


「……やめろ……。」


久保の声が震える。

しかし“影”はゆっくりと口を開けた。


音はない。

ただ、形だけが見える。


> 「見てる。」


その瞬間、カメラのファインダーが真っ暗になった。

バッテリーの警告音も鳴らない。


再び――ぴちゃん。


久保の視界がぐらりと揺れた。

床が湿っている。


足元に、波紋が広がっていく。

光が消え、冷気だけが残った。


「……中、に……?」


意識が薄れていく。

視界の端に、鏡の中の“自分”が、穏やかに微笑んだのが見えた。


その笑みが――安堵に見えた。


朝。


斎藤が研究室に入ると、床は乾いていた。

だが鏡の前に、カメラだけが転がっていた。


「久保? ……どこへ行った。」


電源を入れると、映像が再生される。

途中まで正常。


その後、画面が一瞬だけノイズに変わる。


そして――

鏡の中の久保が、こちらに微笑んでいた。


画面下には、自動挿入された文字。


FROM INSIDE

00:00:12


斎藤はモニターから目を離さず、かすかに呟いた。


「……記録は、続いている。」


部屋の隅で、また音がした。

――ぴちゃん。

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