scene .28 譲れないもの
「片をつけるわよ」
「でもお前……」
ロルフとエルラの横に並んだヴィオレッタは、立ち上がろうとするレイロカを見つめた。その目に浮かんでいる涙をロルフは無視できなかったのだろう。だが、その台詞を指を立てて遮る。
「ヒトを襲ってしまったらそれはただのモンスターよ。そこだけは譲ってはダメ」
ヴィオレッタの確たる信念を感じたロルフは静かに頷くと、視線をレイロカに向けた。
立ち上がったレイロカは、魔力の残り少ないロルフとエルラ二人だけでは苦戦したであろう程には強力であったが、レイロカの……いや、“この”レイロカの事をよく知り得ているヴィオレッタの的確な指示によりいとも容易く倒すことができた。
「何とかなったわね」
ヴィオレッタは目を瞑りそう言うと、大きく息を吸い込み吐き出した。そして、ゆっくりと亡骸に近づくと、そっと触れる。
そんなヴィオレッタを見て、胸の前で手を組んだエルラは「どうか、安らかに」そう呟く。
「埋葬するなら、」
「いいわ」
全ての亡骸に触れランテを抱えて戻ってきたヴィオレッタに、埋葬を手伝おうかと提案しようとしたロルフであったが、ヴィオレッタはその言葉を最後まで聞かずに首を振った。
モンスターは基本的に、素材として切り離された部位を除き、暫くすると魔素となり跡形もなく消えてしまう。そのため、仮に埋葬したとしても動物や獣人とは異なり全てが消え去ってしまうのだ。とは言え、家族のように共に過ごしてきたモンスターをこのままここにおいていくのは忍びない。
ヴィオレッタはその手に握った家族の欠片――ヴェロベスティの牙とレイロカの角の先端を見つめると、「いいのよ」そう自分に言い聞かせるようにもう一度呟いた。
「それに、皆疲れているでしょう。早く戻って休みましょ」
そんなヴィオレッタらしからぬ気遣いに、いつもならば不安を感じる場面だろうが、その表情を見てそんなことを思う者は一人もいなかった。
ロルフがモモを、エルラがロロを、それぞれ抱えると、三人は静かに帰路についた。
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「ギャーピーギャーピー泣いてたくせに何言ってるのかしら?」
「うっさいわね! アンタがうろちょろしてなきゃもっと早く済んでたのよ!」
次の日の朝、ヴィオレッタは思っていたよりも元気な様子でロロと言い争いをしていた。
昨晩宿に戻って来てから本物の姉妹のように世話を焼き、焼かれていた二人だとはとても思えない。あんなにも仲良さげだったのに、誰もがそう思っているだろう。
どちらも目の周りが赤く腫れてはいるものの、どこかスッキリした表情をしている。まぁ、その原因となる展開を目撃していなかったランテが面白おかしくそれを指摘したのが喧嘩の発端なのだが……
「それにアンタもよ! そんな話聞いたのなら早く教えてくれたらよかったじゃない!」
「いや、つったってお前、戻ってこなかっただろ?」
突然の飛び火に、ロルフは思わず本音を口走る。
これもまたランテがモンスターの目撃情報があったのに、と口を滑らせたのが発端だ。だが確かに、目撃情報を共有出来ていたら最悪の結果は免れたかもしれない。そう思い申し訳なさを感じたロルフであったが、ヴィオレッタに悪口ともとれる台詞を吐かれ一瞬にしてその気持ちは拭い去られた。相手が年上だからか、はたまたヴィオレッタだからかは分からないが、普段口にしないような言葉を使いロルフも言い返す。まさに売り言葉に買い言葉。気持ちの良い程流れるような小競り合いが始まった。
「ロルフさんって、あんなに口が悪かったっけ……」
「ヴィオレッタと話してる時は大体あんな感じだと思うよ?」
ケロッとした様子で「何言ってるかわかんないよねー」などと言っているシャルロッテの一方、クロンは僕のせいで、僕が寝ちゃったから、などとブツブツ唱えながらネガティブ百面相をしている。食事にもあまり手をつけられていない。
「まぁま、そんな気にすることじゃないさ。ほら、こうして皆無事なんだし!」
そんなクロンの隣に座り、ランテはじゃじゃーんと部屋にいる全員を紹介するように手を広げた後、まだ料理が綺麗なまま盛られている皿から付け合わせをひょいと持ち上げ自分の口に放り込んだ。
「こらランテ。私のをあげますから席に戻ってください」
「んまっ」と言いながらもう一つ摘まもうとするランテをエルラが注意する。
構って貰えたのが嬉しいのか、叱られているにもかかわらずランテは嬉しそうに笑いながら再び口を開いた。
「えーっエルラから栄養を奪ったらまた細くなっちゃうよ! ダメダメ!」
「クロン様こそ育ちざかりです」
「あーっそうだったーっ! 大人びてるからさ、つい忘れちゃうんだよね。ごめんよクロロン、たくさんお食べ」
ホレホレと、まるで自分が作った料理かのように勧めてくるランテに、クロンは少し笑みを作るとありがとうございます、そう言って再びフォークを握る。
それを見て、モモは何やら感心したようになるほど、と小さく呟く。
「そいえばさー、モモっちって二十歳なんだっけ?」
「そうですよ」
頭にハテナを浮かべながら答えるモモに、自分の席へ戻ったランテは肘をついて頬を指でトントンと叩きながら「そのさぁ」そう少し考えるように視線を動かした。
「実はうちの方がちょっぴり年下だったりして?」
「そうなんですね……?」
ランテが何を言いたいのかわからないのか、モモは首を傾げる。そんなモモに、ランテはんもー! とテーブルに手をついて再び立ち上がった。そして、
「その敬語と敬称をやめて欲しいんだよぉ」
嘆くように体を揺らしながら「何かさん付けって距離を感じるわけ~!」そう付け足す。
そんなランテの動きを楽しそうに真似るシャルロッテの横で、モモは頬を赤らめながら目を瞬かせた。
「じゃ、じゃぁ、ランテ、ちゃんで」
その返事に、敬語も無しだからねと念を押してくるランテに、モモは「わ、わかりま……頑張るね」そう答えた。




