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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
206/212

scene .27 カゾク

「おっそい。待ちくたびれちゃったじゃない」

「――っ!」


 そんな言葉が上から降ってきたことに驚いたヴィオレッタは、思わず檻の外へ飛び退く。視線を檻の上に向けるとそこにいたのは――


「ローシャ!」


 辺りは薄暗いとはいえ、見間違うはずもなかった。自分と瓜二つの姿。ヴィオレッタはずっと探し続けていた妹との再会を果たし、その元へ駆け寄ろうとする。

 が、ローシャは「来るな‼」そう叫び、手に持った鉄の棒をヴィオレッタの方へ向けて一振りした。その鉄の先から稲妻のような光がヴィオレッタの方へ伸びたかと思うと、凄まじい音を立てて地面を大きく抉り取る。

 間一髪で身を翻したヴィオレッタは、一瞬前まで自分が立っていた場所を見つめると、「そんな……」そう呟いてローシャに視線を戻した。そして、何か誤解をしているらしい妹に弁解をするべくゆっくりと口を開く。


「ずっと探していたのよ? 今までどれだけ心配」

「探してた? ふっ……どの口が。アンタは私の事なんて気にも留めずこの地を逃げ出したんじゃない!」


 自分の知る心優しいローシャからは想像できない声色と言い種に、ヴィオレッタは思わず口を閉ざした。ロルフから伝え聞いていた通りの気性の粗さだ。当初は全く信じていなかったが、実際に目に、耳にすると堪えるものがある。

 そんなヴィオレッタを見て何を思ったのか、ローシャはどこか恍惚とした表情をすると「でもいいの」そう口元を歪めた。


「アンタも、アンタを慕う奴らもみーんな地獄に落としてあげるシナリオが出来上がったから!」


 「これが平等ってやつだわ」そう付け加え笑みを作るが、こちらを見据えるその目はどう見ても笑っていない。


「それにね、アンタに裏切られたお陰で私はこの力を手にすることができたのよ?」


 ローシャは視線を自分の指先に向けると、その先でパチパチと小さな電気の線ををいくつか光らせた。

 詠唱もせず陣も見当たらない。そして、この力を手にすることができた、その言葉から、元々は無かった力である事がわかる。ということは、こちらも認めざるを得ないだろう。ローシャはなかったはずの色持ち能力をどこかで入手したのである。


「アナタ、それって」

「ヒトのモノを獲ることの何が悪いの? 弱く醜い者は淘汰され、強い者の糧になるのはこの世の理じゃない!」


 どこでどうやって手に入れたのか、ただそう聞こうとしたヴィオレッタに、ローシャは否定でもされると思ったのか、見開いた目を姉に向け叫ぶように吐き捨てた。

 ヴィオレッタは幼い頃二人で、私たちがお金持ちになったら、自分たちのように困っている人を助けようね。そうよく話していたことを思い出す。貧しくても心だけは腐らせず、食べたいものや行きたいところ、やりたい事なんかを目を輝かせながら永遠と語り合ったものだ。そうして毎日同じような会話をする二人の娘を、父も母もどこか申し訳なさそうにしながらも、優しい眼差しで見守ってくれたではないか。

 ローシャの今の発言。それでは昔の自分たちを苦しめた奴らと変わらない。それに、あの思い出が、あまりにも可哀想ではないか。

 再び黙りこくってしまったヴィオレッタに、ローシャは言い負かしたとでも思ったのかクスクスと笑いながら、何かを思い出したと言いたげな動きをした。


「飼い主は随分簡単に降伏してくれちゃったけど、ここにいた獰猛な奴らはちょっと手こずったわよ? でもやっぱりチカラには敵わないみたい。……ヒトと同じね」


 獰猛な奴ら、その単語にヴィオレッタは即座に反応する。


「どこへやったの!」

「ふふふ、やっと感情的になってくれたわね」


 ローシャは嬉しそうにチロリと唇を舐めると、


「……言ったでしょ。アンタの大切なモノぜーんぶ地獄に落とすって」


 そう言って手に持っていた鉄の棒を力なく離した。そして、「ほら、私はココよ」そう言いたげに手を広げる。

 ヴィオレッタは両手をグッと握ると、ローシャに背を向け元来た道を駆け出した。

 カランカランという、落ちた鉄の棒が底の鉄板にぶつかる音とローシャのクスクスという笑い声が、ヴィオレッタを追いかけるように虚しく響いていた。




*****

****

***




「間に合ってよかったわ!」


 駆け付けたヴィオレッタの鞭から放たれた斬撃は、見事にヴェロベスティの首を切り落とした。

 悲鳴を上げることすらできなかったロロの目の前に、その首が転がる。首が落とされた体の断面からは鮮血が吹き出し、ロロの頭から足までを真っ赤に染め上げていた。

 あまりの衝撃的出来事にその場で硬直したロロの体を、ヴィオレッタは強く抱きしめその頭を撫でる。


「大丈夫よ。もう、大丈夫」


 そう言うヴィオレッタの声もわずかに震えていた。

 ほんの少し、一瞬でも気の迷いがあればこの少女は生きてはいなかっただろう。それが、自分にとって、自分が大切に思う人にとって最悪の出来事であることは間違いない。そんな紙一重で救い上げた命の温もりを感じ、つい先程まで冷えていたのが嘘のように全身に熱が巡る。

 緊張がほぐれたのか、自分の腕の中で嗚咽するように泣き出すロロを、ヴィオレッタはもう一度強く抱きしめると流れるような動きで階段の隅に座らせた。

 あと一体、大仕事が残っている。

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