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黒狼さんと白猫ちゃん  作者: 翔李のあ
story .07 *** 神授せし力と偽りの天使
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scene .26 機転と隙

 ランテはと言うと、数メートル程吹き飛ばされていたものの、逆にそのお陰でこの場所から多少距離をとることが出来ていた。その上、初めはランテに向いていたレイロカの注意も、ロルフの大声によってこちらに向いている。ロルフが大丈夫、と言ったのは出任せではない。立ち上がることのできない状況であることに違いはないため負傷具合は気になるところではあるが、今は安全確保が優先である。

 ロルフとエルラはなるべく三体の気が自分たち以外に向かないようにしながら、着実にヴェロベスティの体力を削っていく。レイロカは、あれ以降大きな動きを見せず何度か魔術を放ってきただけだった。その速度も威力も思っている程のものではなく躱したり相殺することのできる程度だ。もしかすると、この個体は長く生き永らえただけの個体だったのかもしれない。

 そんな中、魔力の消費を制限しながらも健闘する二人がもう一体、ヴェロベスティを戦闘不能にしたところでことは起きた。地震と言うよりは小刻みに震えるような揺れと、地響きのような音が全員の動きを止める。


「なんでしょうか」


 ヴェロベスティとレイロカの動きに注目したままエルラがそう問いかけるが、ロルフにも何が起きているのかわからず首を振った。揺れは徐々に大きくなっている気がする。

 と、動きを止めていたヴェロベスティがそそくさとレイロカの近くへ下がった。何かを警戒しているのか、そう思ったところで揺れの正体が判明する。

 レイロカの両曲がり角の先の中央、つまり、魔石の直線上に光が集まっていた。レイロカは、戦闘能力が低い訳ではなく、この光――つまりは魔力を集めるために力を温存していただけだったのだ。


「まずい……!」


 何をしようとしているのかわからないが、こんな狭い場所で放ってよい攻撃の構えではない事は確かである。だが、光を帯びるほど濃縮された魔力に他の魔術を当てようものなら、それこそ大爆発を起こしかねない。その上当たり前のことながら、魔力は重力に影響される存在でもなければ魂もない。つまりは、ロルフとエルラにはあの魔術を止める手立てがなかった。

 今から逃げる。それも無謀ながら、それしか選択肢がないかと思った時だった。


「クロックハンドカッター!」


 階段を駆け下りる小さな足音と共に、聞き馴染みのある技の名前とブーメランのようなものがその光に向かって飛んで行った。そのブーメランは集められた光を見事二つに切り裂くと、勢い衰えぬままレイロカの角に衝突した。レイロカは魔力を込めることに集中していたためか、その力に押され巨大な体をゆっくりと傾かせていく。


「もう、大人のくせにしっかりして欲しいわね」


 そんな台詞の直後、レイロカが横倒しになった衝撃で地面が大きく揺れた。ロロは今ので最後の気力を使い果たしたのか、へなへなとその場に崩れ落ちる様に座り込み、ロルフたちの方に視線を向け力なく微笑んだ。

 だが、脅威が去った訳ではない。隙を見せた獲物を捕らえようと、光の如く速さでロロに飛び掛かる影があった。


「ロロ!」

「ロロ様!」


 その事にロルフとエルラが気付いた時には既に、ヴェロベスティの牙はロロの首に触れんばかりの距離まで迫り――肉のこそげる音がして、ロロの視界が赤く染まった。




*****

****

***




「肌寒くなってきたわね……」


 森の中を歩くヴィオレッタは、一人身震いした。

 身に纏っているのはオークション会場に乗り込むためのドレスのみで、袖も無ければ脇腹も出ている。そんな恰好で夜の砂漠地帯を歩いていれば当たり前である。

 ロルフ達に後片付けを任せ、なぜこんな場所を歩いているか。理由は一つ。自分の使役する、いや、家族とも言えるモンスターたちを探すためである。


「あ、あったわ……!」


 そろそろ一度ジャデイの宿屋まで戻ろうかと思った矢先だった。

 よく見慣れた檻らしき鉄の一部を見つけると、ヴィオレッタは顔を綻ばせたのも一瞬、きゅっと表情を引き締める。

 檻は元々四つあった。そのうちの二つには大型のモンスターを一体ずつ、他の二つには小型のモンスターを種類ごとに数体ずつ収容していたが、大型モンスターのものと小型モンスター用のもの、それぞれ一つずつの檻は元の形がわからない程にひしゃげてしまっており、中に居たモンスターも同じく見るに耐えない姿となってしまっていた。

 今回の檻は見える範囲ではそこまでの損傷が見受けられないため大丈夫だと信じたいが……ヴィオレッタは檻の全容を見て少しだけ安堵する。

 檻は一部歪んでいる箇所もあったものの、落下の衝撃のためか扉は開いており中にはモンスターの姿はなかった。


「どこへ行ったのかしら」


 相当な高さから落下したのは確かである。そのため、怪我を負っている可能性は高く、付近の獣人に見つかった場合逃げることも叶わず討伐されてしまうことも考えられる。

 血痕や体液の付着がないか、逃走した方向の手掛かりとなるものは無いかを確認するため檻に足を踏み入れたその時だった。

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