scene .29 ×××
「はぁ……」
姉の心をへし折ってくると意気揚々出て行ったにもかかわらずイライラしているローシャ、生命系の色持ちを連れて帰るという簡単な任務さえこなせないシピニア。二人の報告を聞いて男――ブラッドは大きな溜息をついた。
使えると思って贔屓にしてやっている奴らが全員使えない。
必ず復讐を果たす。そう言って試作段階の機械兵器を持ち出したリージアからの連絡も途切れたままだ。
忠誠心だけはあるんだがな……ブラッドは、膝を尽き頭を垂れながら哀愁を漂わせる二人をチラリと見た。辛く当たっている自覚はある。だが、何故かこの二人からは恐怖心で従っている雰囲気を感じない。むしろ信頼や友好心すら感じるほどだ。
「はぁ」
ブラッドは再び短い溜息をついた。最近は寝つきが悪くあまりよく眠れていない。こいつらの失敗をどうフォローするべきかを考えられない程には。
――あの夢を見てからだ。鮮明なあの夢を見てから……ギリギリという、歯が今にも欠けるのではと思える程の歯ぎしりの音に、ブラッドは我を取り戻した。あの夢の事を思い出すといつもこうだ。
今まではあの夢を思い出さずともあの憎き裏切者を排除する為ならば何が犠牲になろうとも構わない、そう思っていたのだが。今はたまに、そんな情念にこうして自分を慕ってくれている者たちを巻き込んでよいのか、そんな気持ちが湧いてくることがある。
「――痛……っ」
『ブラッド様っ』
仮面の下で右目が大きく疼く。そんなことは考えなくてよい、考えるべきではない、そう言われている気がする。
――そうだ、そんなことは考えなくていい。オレは、オレの“やるべきこと”をやるだけだ。
「いい、寄るな」
心配して駆け寄ろうとするローシャとシピニアを手で制すると、ブラッドは「もう下がれ」そう言って二人から顔を隠すように椅子ごと背中を向ける。
少ししてから扉が開き、閉じる音がした。ヒトの居る気配がないことを確認すると、ブラッドは手についた血液をハンカチで拭う。そして、計画に必要のない感情や思いを投げ捨てるように、そのハンカチを乱雑にゴミ箱へと放り投げた。
神授せし力と偽りの天使 end ***




